日体大に進学後、海老原は「体育教師を目指す」と周囲に語っていたが、熱中したのは野球ではなく、マルチビジネスだった。インスタグラムには次第に「一緒に稼ぎましょう!」という言葉が並ぶようになる。
「勧誘系のビジネスをやっていることがわかり、高校の仲間は一斉に距離を置いた。あいつも僕らとの関係を切り、大学1年のときの集まりにも来ませんでした」(前出・元野球部員)
中心メンバーには1000万「受給者の手元には1円も残らなかった」
一昨年夏、こうして役者は揃った。松江を頂点とする7人は「持続化給付金指南役チーム」というグループLINEを作成。中村は海老原が勧誘してきた大学生などに申請のポイントを指南した。
「中心メンバーである松江、中峯、中村、濱口の報酬は各々1000万円。さらに騙し取った金の8割、約1億6000万円がMEに投資するという名目で松江に渡っている。結局、受給者の手元には1円も残らなかった」(前出・社会部記者)
パシリ的な立場の塚本の報酬は、わずか120万円。取調べに対しては黙秘を貫いている。一方の佐藤は「中峯から誘われたから手伝っただけ。申請はしたが、不正受給とは知らなかった。報酬は一切、受け取っていない」と供述している。
前出の松江の知人が余罪を打ち明ける。
「実は、彼のチームは給付金を詐取するだけではなく、大学生に何百万円という空ローンを組ませ、MEに投資させており、それも表面化し始めていた」
松江が妻子を連れ、ドバイへ飛んだのは、今年2月頭のことだった――。
佐藤の祖父は、最後に孫と会った昨年春の出来事を鮮明に覚えている。
「あの日は『就職が決まったよ』と報告に来て『頑張れよ』と言ったんです。不動産会社と聞いて『悪い仕事ではないけど、まずいと思ったらすぐ逃げろよ』と伝えていた。言いつけをきちんと守る、本当に真面目な子だったのに……」
前出の捜査関係者が今後の捜査について言及する。
「警視庁は近く松江の逮捕状を請求。速やかに国際手配し、消えた給付金の行方を徹底的に調べる方針です」
浅はかなマネーゲームに踊った若者たちは、これからツケを支払うことになる。
〈#1から続く・完〉