幕末という時代の魅力
――鈴ノ木さんは、現在、幕末を舞台にした『竜馬がゆく』を手がけていますが、この幕末という時代がもっている魅力は何だと思いますか?
鈴ノ木 幕末って、おじいちゃんのおじいちゃんぐらいが生きていた時代じゃないですか。だから身近に感じられるような部分がありながら、今では考えられない変化があったりする。どこか自分とつながっているんじゃないかと思えて、そこで自分だったらどっち派(新政府側か幕府側か)かなと想像してみて。ま、結果、僕はどっちにもいかないな、傍観かなって思ったりできるのが魅力ですかね。
泰 どっちにもいかないの、正しいですね(笑)。
――泰さんは、幕末の魅力はどこにあると思いますか?
泰 今まで経験したことのないような国のピンチで、通常では考えられない天誅とかテロとかいっぱい起きたと思うんですけど、そういった非常時に、いろんな人がどういう動きをしたのかを、俯瞰で見られるのが楽しいんだと思います。
――なるほど。
泰 もっと突き詰めていくと、それぞれの立場で行動した人たちには、どういうリーダーがいて、そのリーダーたちは、どういう生い立ちで、どんな育ち方のちがいがあったから、こういうことをしたのかと。そういった比較を積み上げていくのが楽しさじゃないですかね。
ネタバレしている歴史物は「年表以上のものをお届けしないと」
――『週刊文春』の読者には、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読んだ人も多いように思います。そのなかで新しい面白さを提示することの難しさを感じることはありませんか?
鈴ノ木 うーん、ないですね。自分がすごく楽しもうと思って。せっかく重い歯車を回したんですからね。司馬先生を読んでる人も、あのネタこう使ったんだとか、このエピソードをこうやったんだと思ってもらえたらいいし、初めて読む人は単純に面白がってもらえたらいいですね。そのためには、自分が楽しんで描くのがいちばんなので「ない」という言い方をしました。
――変にしばられないようにと。
鈴ノ木 そのように描かせてもらってありがたいなと思っています。
――泰さんは、歴史を題材にすることのハードルは感じますか?
泰 ウィキペディアを見ると、だいたいのネタバレが載っているので、読者の方にどうやって楽しんでもらうのかは、頭を悩ますところなのかなと思います。
――ストーリーだけでは引っ張れないという部分はありますよね。
泰 年表を読むのがいちばん楽しいですもんね。
鈴ノ木 わはは(笑)。
泰 年表以上のものを漫画ではお届けしないといけないと思いますので。
――歴史を絵にする難しさはありますか?
泰 やはり何を描くにしても調べなきゃ描けないところですね。宿でも船でも調べて描く必要がある。当時は、こんなものあったのかなとか調べますよね。
鈴ノ木 歴史って調べれば調べるほど大変なんですよね。当時からあったお菓子は何だとか、旅の途中で何を食べたとか。鰻重とか食ってたのかなとか調べるのは面白いんですけど、自分の中では、そういった史実よりも読者に伝わりやすくすることを大事にしています。
たとえば、人相書きとかも、当時は文章だけだったんですが、これだと読む人に伝わらないので、絵を描いた人相書きにします。僕はどっちかというとエンターテイメント寄りのことを大事にしていますね。史実よりも読者がどうすれば喜んでくれるのか、どうしたらわかりやすく伝えられるかですね。