1ページ目から読む
3/4ページ目

――史実をどこまで再現するのか、その線引きが難しそうですね。

鈴ノ木 もちろん最低ライン調べるというのは、どうしてもあります。そのうえでここは必要ないかな、ここは描かなきゃいけないという選別ですね。大事にしているのはそのときに何が使われていたのか、本当にこの時代にこういった道具があったのか。たとえばキセルを吸うにも、携帯用の火おこしってどういうものを使っていたのかとか、そういったところは大事にしますね。今は便利な世の中なので、そういう調べものはわりとすぐに見つかります。それでも見つからないものを探すのは、なかなか大変ですが。

『竜馬がゆく』 ©鈴ノ木ユウ/文藝春秋

――泰さんは、調べるときに心がけていることはありますか?

ADVERTISEMENT

 登場人物がたくさんいるので、一人につき一冊は本を読むようにしているのに加えて、できるだけその人の地元の資料館に行ってみるようにしています。地元の資料館に行くと、一般的には評判が悪い人物でも、地元では評判がいいなとかわかって、そういうところを描くと人間性が出るのかなって思いますね。

『ハコヅメ』より ©泰三子/講談社

――地元という話が出ましたが、鈴ノ木さんの地元は山梨県ですよね。山梨県の歴史上の人物といえば……。

鈴ノ木 はい、兎にも角にも武田信玄です。実は、甲府大使をやらせてもらっているので、僕のところにも武田信玄生誕500年イベントの連絡がきたんです。でも、忙しくて息子の誕生日も祝えないのに、信玄の誕生日祝えるかよって(笑)。お断りさせていただきました。

――やはり武田信玄に尽きるんですね。

鈴ノ木 餅も信玄だし、どこに行っても信玄なので、ちょっとそこが苦手ですね。

 ふふふ(笑)。

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を見ると「悔しい」

――そのほか、歴史で好きな時代といえば何時代ですか?

鈴ノ木 最近は大正から昭和初期あたりが気になりますね。人物でいえば犬養毅とか高橋是清とか。たとえば僕は一応、教員免許も持っているので、教育に興味がないこともないんです。だから、たとえば二・二六事件がなかったら教育ってもっと別のものになっていたんじゃないかなとか考えたりします。

――泰さんは?

 平安、鎌倉あたりですかね。戦国も好きです。普通ですね。

――大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も見てますか?

 見てます。楽しいです。「悔しいなぁ。もう見るのやめようかなぁ」って思いながらも毎週見ています。

――どうして見るのやめようかなって思うんですか?

 悔しいじゃないですか。あんなに面白いの。

――悔しい?(笑)

 もう悔しいです。面白いのを見るのが嫌です。

――どういうところが面白いですか?

 まず脚本。そして俳優さんたちが、それぞれの新境地を開拓されていって、力一杯みんなでやっている感じですね。それぞれが自分の限界を超えていく感じが毎週あるじゃないですか。そこにライブ感がありますよね。鎌倉時代が舞台なのにライブ感があるのがすごいなって。

――鈴ノ木さんはご覧になっていますか?

鈴ノ木 たまに忘れちゃうときもあるんですが、妻と一緒に見ていますね。

――面白いものを見ると、悔しくなるって感覚、わかりますか?

鈴ノ木 それはすごくわかりますよ。面白いのを見ると「こんなに面白いのがあるんだから、僕がやらなくてもよくね?」って思っちゃう(笑)。

 わかるわかる!

鈴ノ木 司馬先生の『竜馬がゆく』は面白いじゃないですか。こんなに面白いんだから「漫画はなくてもよくね?」って思ったこともありました。ただ、そこは逆にもっと面白いものができればいいなと思えるようになりました。僕の座右の銘じゃないけど「届かなくても挑みたい」ってのがあって。せっかくチャンスをもらったので、挑んでみたいなって思っています。