年の瀬の武道館といえば永ちゃん、年の瀬の九段会館といえば鳥肌実、と言われていましたから、よく日程が被りまして、夕方、九段下の駅から大勢の矢沢ファンが武道館を目指して殺到している中に混ざって、少数の異様にテンションの低いウチのお客様が、憂鬱な表情で九段会館方面に枝分かれしていく光景は、毎年恒例でした。
対照的な客層でしたが、矢沢ファンがウチの物販だけ買いに来ることも稀にありました。
鼻息荒いお客さんから「掛け声」が
――鳥肌さんが出てきた1990年代は、まだ左傾化の風潮が強かったと思います。そうした世相が、鳥肌さんを一層際立たせていたのではないかなと。
鳥肌 憲法九条憲法九条……お題目みたいに唱えている人が多かった時代ですからね。もしくは、南無妙法蓮華経でしょ、憲法九条か南無妙法蓮華経、究極の選択ですよ。そういう時代でしたから、国粋芸人というのは、確かに逆張りがハマったのかもしれません。
しかし、今は酷いもんです。今の日本が右傾化しているとは、決して思わないんですが、現実の世界が、特に東アジア情勢はキナ臭いことになっていますから。例えば「目には目を、ミサイルにはミサイルを! 威嚇射撃ではなく、全弾命中でございます!」これ言うと、鼻息荒いお客さんが「その通り! 間違いない!」と掛け声が……かつては失笑くらいはあったんですがね、今は皆さん、真顔のままですよ。
――鳥肌さんの芸の受け止められ方にも変化が起きているんですね。
鳥肌 戦後の日本のエンタメ業界は、基本的に左巻きですよね。特に音楽業界は、フォークにせよ、ロックにせよ、左が当たり前で、左がかっこいいんだと。要するに反戦、反体制、反権力。国粋主義のロックやフォークとかはありえなかったわけで。
しかし、私が思うに、反体制、反権力はいいとして、それと反日とをごっちゃにして主張してくる輩がいませんかと、ただ単に日本が嫌いで、日本人と、日本国家を蔑み、それで反体制も反権力も無いだろと。
私は芸人でありますが、エンタメ業界において、右寄りのパフォーマンスというのはやはり珍しかったと思います。
ウィキペディアは「概ね私が修正しました」
――最近は芸人さんのプライベートや公表していない部分のプロフィールが、インターネット上に流布されてしまいます。その一方で、積極的に前面に出される方もいます。鳥肌さんは公式サイトなどでもそうしたものを出していませんが、こうした状況をどう思われていますか。
鳥肌 私は真面目なプロフィール、つまり噓偽り無い経歴のような物は、何一つ公表したことがないんです。別に頑なに隠しているというわけではなくて、ガチのプロフィールを公表したところで、何も面白くないし、それによってお客さんが増えるわけでも何でもないので、要するに公表するメリットが何も無いのでしないと、それだけのことなんです。
もし私が、阪大法学部出身ということを公表したとして、それ笑えますか?