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「2100年の東京の最高気温は夏が42℃、真冬でも26℃の夏日に」地球温暖化によって待ち受ける“日本の過酷な未来”

『お天気ハンター、異常気象を追う』より #1

2022/09/04

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, ライフスタイル

夏の蒸し暑さを作り出す「太平洋高気圧」

 日本の夏がすこぶる不評なのは、高い湿度のせいであることは誰もが頷(うなず)くところである。その昔、兼好法師も「家の作りようは夏を旨とすべし(住まいは夏に快適に過ごせるように作るべし)」(※1)と忠告したように、夏の暑さは冬の寒さよりも耐え難い。体にねっとりとまとわりつく夏の蒸し暑さを作り出すのが「太平洋高気圧」である。

 太平洋高気圧は、一昔前まで「小笠原高気圧」と呼ばれていた。これは天気図がまだ日本周辺だけをカバーしていた時代の名称である。つまり天気図の範囲が小さく、太平洋全体が見渡せなかったために、高気圧の中心が小笠原付近にあるように見えたのである。

 しかし実際のところ太平洋高気圧は巨大で、東はアメリカ西海岸、西は日本、時に中国大陸にまで達し、北太平洋をすっぽり覆うほどの広さがある。実際のへそはハワイ付近にあるから、本来は「ハワイ高気圧」と呼んでもよさそうなもので、暖かい海上を住処(すみか)にするから日本列島にサウナのような夏をもたらすのである。

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 このように、蒸し暑さの原因は太平洋高気圧にあるとして、40℃を超えるような異常高温が起こる場合には、他にも原因があることが多い。たとえば2020年8月17日に静岡県の浜松市で国内最高気温タイの41.1℃が記録された時にも、いくつかの原因が絡みあっていた。

森さやか氏 ©文藝春秋

猛暑をもたらす“高気圧二段重ね”

 まず1つが「チベット高気圧」である。太平洋高気圧が、ハワイの方、つまり東から日本に張り出してくる高気圧だとすれば、チベット高気圧は、西の中国大陸から張り出してくる高気圧である。標高が高いチベット高原は、強い日光が照らすため空気が暖まりやすい。すると空気が膨張するのだが、下はチベット高原、上は成層圏という天井に挟まれ、空気は圧縮され、密になって高気圧になる。まるで、小さな箱の中で風船を膨らました時のように、大きくなれない風船の中では空気がパンパンになって気圧が高くなる。

 チベット高気圧もまた、太平洋高気圧に負けず劣らずの巨大サイズで、チベット高原を中心に、東はアジア、西はアフリカ大陸の北部までを覆うことがある。空の高いところにできている高気圧だから、大陸から日本に勢力を広げても、太平洋高気圧の陣地には影響を与えない。だからチベット高気圧の勢力が強く、日本にも張り出してくるようなときは、日本に2つの高気圧が積み重なって、連日の晴天と猛暑をもたらす原因となる。

 2020年に浜松で41.1℃が観測されたときには、この“高気圧二段重ね”に加え、フェーン現象が起きていた。フェーン現象とは、湿った空気が山を上り下りすると乾いた熱風に変わるという、手品のような現象である。

 マジックのタネは空気の性質の違いで、湿った空気は温度が変わりにくく、高度1キロごとに気温が6℃変化するのに対し、乾いた空気は温度が変わりやすく、1キロごとに10℃も変化してしまうことにある。まず湿った空気が徐々に気温を下げ、雲を作り雨を落としながら山肌を駆け上がる。頂上ですっかり乾ききった空気は、今度は一気に昇温しながら山肌を駆け下りる。結果、乾いた熱風が吹き付け、山火事が起きやすくなるうえに、プラスイオンを発生させて人を短気にさせたり、憂鬱(ゆううつ)な気分にさせたりするなど、マイナスの副作用もあるという。

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