がん患者なら、だれもが最良の手術を受けたいと願うもの。しかし「切るか切らないか」など悩みは尽きません。そこで名医と称される専門医たちに尋ねてみました。
「自分が患者だとしたら、どんな治療を受けたいですか?」
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乳房専用のX線検査「マンモグラフィ」のことは多くの人がご存じだろう。視触診とマンモグラフィを併用した検診で乳がん死亡率を減らせることが科学的に証明されている。ただし、ここ数年、欧米の臨床試験で、マンモグラフィ検診を受けても死亡率は下がらないという報告が相次いでいる。検診には限界があることも理解して受ける必要があるだろう。
30年近く乳がん検診と治療に取り組んできたJCHO久留米総合病院院長の田中眞紀医師は、自身も定期的にマンモグラフィ検診を受けている。
「がんになるのを防ぐことはできませんので、なるべく早期の状態で診断されたいと思っています。進行がんで発見されないかぎり、5年生存率は90%以上と予後は良好です。みなさんも恐がらず、ぜひ検診を受けてください」
ただし、20〜30歳代の若い人は、発達した乳腺で乳房が白く映るので腫瘍を見つけにくく、有効性も証明されていない。
「若くして乳がんになる人もまれにはいますが、45歳から65歳が発症のピークです。40歳になったら少なくとも2年に1回、マンモグラフィ検診をおすすめします」(田中医師)
早期で発見できれば、完治の可能性が高まるだけでなく、乳房を残せるチャンスもある。「乳癌診療ガイドライン」(日本乳癌学会)では、大きさが3センチ以内のものが、乳房温存手術ができる目安とされている。従来の乳房切除手術と生存率が変わらないことから、一時はマスコミでもてはやされた。
しかし、今、揺り戻しが来ている。無理に乳房を温存すると、腫瘍をくり抜いたところが凹んだり、歪になったりして、乳房が変形することがあるからだ。
「それに、乳房温存手術は乳腺内に残る可能性のあるがん細胞を叩くために、原則的に放射線照射をしなければなりません。皮膚が硬くなり、伸びにくくなるため、あらためて乳房再建手術をしようとしてもリスクが高く、できあがりもよくないことが多いのです」
そう話すのは形成外科医で、乳がんの乳房再建手術のパイオニア、ブレストサージャリークリニック院長の岩平佳子医師だ。乳房温存手術の問題点が明らかになってきたため、最近は無理に乳房を残さず、希望する人はその後に再建手術を受ければいいと考える乳がん専門医が増えている。