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 それに乳房再建手術は驚くほど進歩した。乳頭・乳輪を取っても、刺青を使ったり、同じような色の皮膚を移植したりすることで、どちらが残った乳房か一目ではわからないほど見事に再建できるのだ。

 乳房をふくらませるには、シリコンなどの人工乳房を使う方法と、腹部や臀部の皮膚・脂肪を使う自家組織再建がある。一般的な人工乳房の場合、乳房を切除した皮膚と筋肉の下に風船状の組織拡張器を埋め込み、少しずつ膨らませて皮膚を引き伸ばす。そして、残った乳房と釣り合う大きさになったら、シリコンと入れ換えて完成させる。

 人工乳房の再建手術は、12年から健康保険が適用されるようになり、より身近になった。岩平医師は言う。

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「私が乳がんになったら乳房を全摘して、人工乳房の再建手術を受けます。うちのナースも全員が受けると話しています。手術方法には、切除手術と同時に組織拡張器を入れる『一次再建』と、切除手術後しばらく時間を置いてから入れる『二次再建』がありますが、わたしは一次再建を選びます。上手な医師がやれば、からだへの負担が少ないからです」

 岩平医師の患者には、70歳を超える人も少なくない。「夫や友人と温泉に行きたい」「孫とお風呂に入ったら、気持ちわるいと言われた」といった理由で来院する人もいるという。片側がないと下着がずれ、煩わしく感じる人も多い。

「乳房をつくりたいという思いに、年齢は関係ない。夫や子の意見ではなく、自分の意志で決めるべき」

 と、岩平医師は話す。ただし、乳房に対する考え方は、おなじ女性でも人によって様々だ。県立静岡がんセンター乳腺センター長の高橋かおる医師はこう言う。

「あなたならどうしますか? とたまに聞かれるのですが、価値観は人によって違いますので、答えようがありません。あえて言うなら、私は乳房の形は気にしませんので、私の場合は取り切ったほうがよさそうならば全摘して、再建もしないと思います。でも、もし母が再建したいと言ったら、反対はしないでしょう」

 高橋医師はむしろ、形のいい乳房温存にこだわるあまり、傷の目立たない手術や、小さく取る手術ばかりが重視される傾向に疑問を抱いているという。

「昔の外科医は『がんを取り残してはいけない』と考えていました。ところが最近は、『傷を大きくしてはいけない』『組織を取り過ぎてはいけない』という考えが主流です。しかし、目立たない位置を切る手術や腋の下からカメラを入れる手術は、がんの真上の皮膚を切り開く手術に比べると、がんをきちんと取り除くにはかなりの技術が必要とされます。手術方法を選ぶとき、医師も患者さんも『がんの怖さ』を忘れないでほしいと思います」