「金与正vs.崔善姫」対立構図の真相とは
金日成、金正日の代に仕え、北の政治体制の根幹を成す「主体(チュチェ)思想」の生みの親とも取りざたされる黄氏だが、大物脱北者だった彼の“与正評”が彼女の人となりを的確に示しているという。
「黄氏によると、与正は、幼い頃から政治に興味を持ち、正日と黄氏との密談にも聞き耳を立てていたそうです。政治介入し、地位を求める姿は幼少期と何ら変わっていません。正日も、そうした彼女の積極的な姿勢を評価していた面があった。自身の後継として考えた時期もあったはずです」
外交の舞台でも存在感を示してきた与正だが、その彼女に、対米政策、核問題、南北(朝鮮)問題についてアドバイスを与えてきたのが、“猛女”崔善姫の前任の外相だった李善権であった。
北朝鮮の動向を追うジャーナリストや研究者らの一部は、金与正の実質的な後見役を担ってきた李氏に関するこうした背景と、外相解任の経緯を捉まえ、「金与正vs.崔善姫」という対立の構図を描く者も少なくない。
2人の“猛女”の手中に、世界の命運が握られている
しかし、金氏はその見方を否定し、こう続ける。
「対米交渉の現場での崔善姫を『穏健派』と見る向きもありますが、実情は違います。彼女は非常に戦闘的で、そうした意味では与正と似ているんです。崔が仕えた李容浩元外相も崔と同様に米国問題のスペシャリスト。この2人を遠ざけることはないでしょう。むしろ、米朝交渉での与正のアドバイザー役に据える腹づもりなのではないでしょうか」
では、この人事の狙いはどこにあるのか。
「北は次の核実験を念頭に置いています。外相を解任された軍人上がりの李善権は、韓国に対する対策の先駆者でした。韓国の対策を李善権が、対立する米国との折衝を崔善姫が担うことになっているのです。崔善姫は、核実験に備える総責任者に任命された形で、北が、次の核実験を狙っているのは明々白々です」
世界の秩序が再び破壊されるのか。2人の“猛女”の手に、北朝鮮のみならず世界の命運は握られている。
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