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 北朝鮮との対話交渉を所管する「韓国統一省」の発表などによると、崔氏は1964年生まれの58歳。金氏と同じ平壌外国語大学を卒業し、北京やマルタなどへの留学を経て外務省入りした。2018年、19年の米朝首脳会談で実務の中心を担うなど、対米交渉に長く携わってきた「米国通」だ。

 軍人出身で対米強硬派の李善権(リ・ソングォン)から外相を引き継いだ背景に、米国との対話再開を視野に入れる金正恩の外交方針の変化も囁かれている。米朝関係を探る上での「キーマン」に急浮上した崔氏について、金氏が特別な感情を抱いたのには訳がある。

第1外務次官時代の崔善姫氏 ©共同通信

崔善姫氏と結婚話が浮上したが…

「彼女は大学の2年後輩。外務省でも同僚で、上司の取り計らいで結婚の話まで出たこともありましたから。仲人役は外交官時代の担当課長だった李容浩(リ・ヨンホ)氏と、金桂寛(キム・ゲグァン)氏でした」

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 2人はその後、李氏が外相、金桂寛氏は、省ナンバー2の第1外務次官にまで上り詰めている。

「知り合った頃の崔氏は、『北朝鮮の生粋の政治エリート』というように見えました。彼女の養父は崔永林(チェ・ヨンリム)元首相。金日成国家主席の『責任秘書』、つまり、最側近だった人物ですから。その血筋に加え、語学も堪能で早くから将来を嘱望されていました」

 

 北の始祖である金日成と父親との太いパイプは、娘の崔氏にも引き継がれた。金正日が開くパーティーには崔氏の姿が必ずといっていいほどあり、金一族とは家族同然の付き合いだったという。

「金正日の寵愛を最も受けた愛人で、北の現在の最高指導者である金正恩の生みの親でもある高容姫(コ・ヨンヒ)から贈り物を受ける間柄でもありました。高容姫は、自らの名義で、『プルコギに』と鹿の足やキジの肉を贈っています。その贈り物の中にはドルや円といった外貨の束も混じっていた」

 ロイヤルファミリーの絶対的な威光も背景に、崔氏は順調に出世階段を上っていった。外務省に入省後は10年間、「翻訳局」に籍を置いている。

「そこでは国連問題や首脳会談での通訳を担当しています。金正日政権下で進められた核開発にまつわる交渉にも深く関わっている。その力量は周囲から、『技術的にも外交的にも完璧』と評されていました」

 組織での栄達を目指す上ではこの上ない相手といえたが、金東水氏は崔氏と契りを交わすことはなかったという。