1ページ目から読む
3/3ページ目

「常識を覆した」過失割合100対0の完全勝利

 熊谷氏は24年間の警察官時代の大半を交通畑で過ごし、「どう少なく見積もっても2000件以上の事故」を扱ってきたという。

「刑事事件に発展するような特に悪質な案件を除き、多くの場合は実況見分をして調書を仕上げれば警察の役割は終了です。現在の私の仕事は、そうして作られた調書を事故からしばらく経過した後に解析して、当時何があったのかということを明らかにすること。依頼者が相談に来るのは、訴訟でこじれるなどして事故から年単位で月日が経過していることが多いですね」

熊谷宗徳氏

 2020年11月にさいたま地裁で判決が言い渡された交通事故をめぐる民事訴訟でも、熊谷氏の鑑定が大きく影響した。一般的に車両同士の事故で双方が動いている場合、過失の割合は「100対0」にはならない。その常識を覆し、完全勝利をおさめたのだ。

ADVERTISEMENT

 熊谷氏も「まさか100対0で勝てるとまでは思っていませんでした」と、当時を振り返った。

着目した「事故時のバイクの速度」のナゾ

「2016年8月、直進する大型バイクと右折する普通乗用車による交差点での事故でした。バイクに乗った30歳の男性を右折車が巻き込み、男性は搬送先の病院で死亡。右折車の前方不注意が最も悪いのですが、相手方は『60キロ制限の道路でバイクが90キロほど出していた』と主張。1審ではその主張が認められ、過失割合は亡くなった男性側にも15%あると判断されました。

 ですが、調書を読むとそれはありえなかった。

 事故時の速度は、衝突時のバイクのホイールベースの縮まり具合で分かるんです。そこで計算してみると、バイクは時速60キロも出ていなかった。控訴審では数字を根拠に丁寧に主張し、バイクの過失は問わないという判決が下りました」

※写真はイメージです ©iStock.com

 亡くなったのは将来有望な30代。若いと、将来稼ぐであろう金額が考慮され支払われる保険金は億を超えることもある。このため過失割合の変更が15%といっても、保険会社が支払う金額は一千万円単位で変わることになる。

 そんな熊谷氏が「最も印象に残った訴訟」だというのが、幼稚園児の子供を持つ30歳の男性が若くして死亡した転落事故だ。

「当初、保険会社はこの事故を『男性の自殺だ』とし、保険金を支払っていませんでした。ですが奥さんは『自殺はありえない』と……」

 果たしてこの事故はどういう結末を迎えたのだろうか。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。