鑑定は一律料金「被害者らの名誉をはらしたい」
熊谷氏のもとには全国から依頼が殺到している。さぞや忙しいだろうと思うが、大部分の依頼は受けられないという。
「ありがたいことに思った以上に相談は来ます。それだけ事故に巻き込まれて困っている人がたくさんいるということでしょう。ただ、実況見分調書から読み取れる事実以外は書けませんので、『こうゆう鑑定を書いてほしい』と依頼いただいても事実と異なっていればお断りすることが多いんです。中には、依頼通りの鑑定をそれっぽく書く鑑定人もいますが(笑)」
交通事故をめぐる訴訟で動く金額は大きいが、鑑定料は一律同じ料金だという。
「やることは一緒ですし、現地に行くと多少お金もかかりますが、そんなに金がかからないのが鑑定なんです(笑)。相談があると、受ける前に資料に目を通した上でこのようなことが読み取れこのような主張ができると推察される、という事前所見書を無料で書いています。それで思い通りにならないと思った人は、仕事を依頼してこないですね」
熊谷氏の事務所に鑑定の依頼がやむことはない。
「ドラレコなどの普及で調査もしやすくなっています。保険会社は嘘がつけなくて困っているでしょうが(笑)。それでもやはり鑑定は難しいです。理系的な知識が必要になりますし。これだけ長くやっていても常識を覆されるというか、新しい発見だってあります。
そして福島の転落事故のように、人から感謝されることが何よりもやりがいですね。事故で亡くなった奥さんの名誉をはらしたいから、鑑定してくれと高齢の方に頼まれたことがありました。その方は鑑定書を『宝物にする』と言ってくれ、今もたまに電話を頂きます。そのような方に出会えるのもこの仕事の醍醐味です」
熊谷氏の交通事故鑑定の背景には数々のドラマがありそうだ。