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あの幸せな日々が甦る…北海道日本ハム初代ユニフォームにジーンときた夜

文春野球コラム ペナントレース2022

万波中正のがんばりを見ていて、あの頃のひちょりを思い出す

 なかでもいちばん感激を露わにしていたのは今川優馬だろう。彼は選手であって、ファイターズのファンだ。北海道初代ユニを着た写真を2枚添付して、こうツイートしている。

「また1つ僕の夢が叶いました! とても感慨深いです。ずっと着てみたかったユニフォーム似合ってましたか? お写真撮ってくれると嬉しいです」(今川優馬公式Twitterアカウントより)

 

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 今川の「このユニ着て、札幌ドームでファイターズやってるのが嬉しくてしょうがない」風情を見ながら、あぁ、思いの差だなと感じた。今川だけじゃない。札幌ドームのファン全員が幸福な夢を見ている。いちばん最初に、みんなで見た夢。いちばん最初に、憧れた選手。そりゃ日本ハム球団創設時のユニとか、東映ユニを持ってきても(オールドファンはともかく)球場全体は震えない。思いがないから、単なるイベントユニだ。読者は近藤健介がダニエル・パウターの『Bad Day』で打席に入るとき、泣きそうにならなかったか。コンスケが背番号8を継承した金子誠の登場曲だ。思いがあるってそういうことだ。

 僕は例えば万波中正のがんばりを見ていて、あの頃のひちょりを思い出す。万波、簡単にひねられるじゃない。だけど、いっしょうけんめいじゃない。たまに凄いことするじゃない。ひちょりに似ている。ひちょりもあんな風だったよ。西武ドームでひちょりのお父さんと一緒に見てると、息子が打席に立つと息をしなくなる。守備固めでもらった試合終盤のたった1打席。打席のひちょりの心も震えている。親子が震えながら「何とかしたい」って思ってる。で、松坂大輔からフォアボールを取ってガッツポーズだ。ひちょり父は「勝った」と言った。フォアボール選んだだけだよ。日暮里の焼肉絵理花でお母さんと中継を見てたらひちょりが送りバントを失敗した。そうするとテーブルに突っ伏して「お願い~、送りバントさせないで~。バントできないから~」と声を上げた。ひちょりは2番バッターも務めて、バントなんか簡単に決めた印象があるかもしれないが、技術のないうちは必死だった。でも、そんなひちょりが成長して、06年プレーオフ最終戦、ソフトバンク斉藤和巳がマウンドに崩れ落ちた「運命のホームイン」の当事者になる。

「ファイターズ・クラシック」初戦は万波、谷内のタイムリーで先制、松本剛と清宮の中押しも決まって、オリックスを倒すことができた。上沢は手術明けの初勝利、通算成績を7勝7敗とした。このユニフォーム着て負けるわけないという気がした。どっちが最下位でどっちが優勝争いしてるのかわからない試合だった。

 そして、あの頃シンジラレナーイほど幸せだった記憶や、今日の勝利の甘やかな余韻に包まれて、頭がジンジン、ジンギスカン、ホイララハイララなってる最中に、雨粒がぺちっと頬を打つようなやつがやって来た。あれ? ぺちっ。何だこれ。ぺちっ。自分は今、ワハハハオホホホ浮かれてるはずなんだけど。ぺちっ。

 頬に当たるのは寂しさの粒だった。僕らはもうすぐ札幌ドームを出ていく。福住駅からてくてく歩いて、歩道橋のところでドームを見上げる日々が終わるんだ。

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