2022年7月30日、プロ野球の支配下登録期限が目前に迫ったこの日、ナゴヤ球場で1人の育成選手がウエスタンリーグで“公式戦初登板”を果たした。

 投手の名前は竹内龍臣。2019年に中日ドラゴンズからドラフト6位指名を受け、札幌創成高校から入団した。石川昂弥や岡林勇希とは、同い年の同期入団である。肘の怪我の影響で2020年オフに育成契約に切り替わり、21年秋に手術を行った。傍目から見れば、まあまあな回り道を経てたどり着いた初登板だった。

竹内龍臣

「自分の武器はストレートなんで、(捕手の)味谷(大誠)と話して『直球主体のピッチングにしよう』って」

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 そう本人が振り返るとおり、対峙したオリックスバファローズの打者相手に投じた全11球の内、そのほとんどがストレート。竹内の右手から離れた白球は、一直線にストライクゾーンに構えられたミットに吸い込まれていく。そして面白いように打者は詰まる。結果、二ゴロ・遊安打・遊併殺打と全て内野ゴロで抑え、1回無失点でデビュー戦を終えた。

 マウンドを降りた竹内のもとに、堂上直倫や福留孝介など、偉大な先輩たちが次々と声をかけていたのが、とても印象的だった。中でも岡田俊哉は、真っ先に駆け寄って竹内を祝福していた。

「俊さんには、いつもよくしてもらってるんです。『やっとスタートだな、本当によかったな』って、あの時は言ってもらえました」

「お前の球、1軍で通用するよ」と言ってくれた大先輩

 筆者が竹内に初めて会ったのは、2020年春季キャンプだった。あの時はコロナ禍に入る直前で、まだ記者達も気軽に直接選手と話すことができた。『ドラゴンズぴあ』という雑誌で新入団選手の記事を任されていたため、筆者は札幌創成高校野球部の部長ともやりとりをしていたこともあって、取材を兼ねて諸々のお礼を竹内本人にも伝えたかったのだ。

 実際に対面で話をして感じたことは、とても礼儀正しい青年、というのが第一印象。ただそれ以上に、入団当時から腰を痛めてリハビリ組にいたため、別メニューで調整した後に1人ポツンと昼食を取る様子が強く印象に残った。まさに「右も左もわからない」という慣用句がピッタリの初々しい姿だった。

 その後、前述の通り育成選手としての再契約、そして肘の手術など紆余曲折を経るわけなのだが、折を見て本人とは連絡を取っていた。そんな中で昨年末に届いたメールにこんな一文が書かれていた。

「自信はあるので、しっかり治して活躍します!」

 失礼ながら、2軍でも一度も投げていない投手の言葉とは思えなかった。その言葉の真意がどうしても知りたくて、取材を申し込み、こんなメールくれたの覚えてます? と聞いてみたところ、本人は見事に忘れていた。

「恥ずかしいです。僕、そんなこと書いてたんですか? でも、そう思ったキッカケはなんとなく覚えてます。(ソフトバンクにF A移籍した)又吉(克樹)さんと、去年キャッチボールしたんですよ。リハビリ組にいると、上から調整で来た人と一緒に練習することが多いので。その時に又吉さんから『お前の球、1軍で通用するよ』って言ってもらえて。これだけの実績を持ってる人がそう言うんなら、そうなのかな、って。『投げられればだけどな、お前ケガばっかりしてるもんな!』って最後に言われましたけど」

 又吉は正しかった。初登板から竹内は4戦連続無失点を記録し、片岡2軍監督も「真っすぐで空振りが取れるのが大きい。投げるたびに自信も出てきたと思う。もちろん壁にも当たると思うけど、楽しみです」(2022年8月11日付・中日スポーツ)と期待を寄せている。