記録よりも、記憶に残る――。
そんな走りを期待したいのが、年始の1月2日、3日の箱根駅伝に21番目のチームとして出場する関東学生連合の選手たちだ。
連合チームは10月に東京・立川で行われた予選会で敗退した大学の中から、予選会の20kmの成績と、その後に行われた10000m記録会の合計記録で選出されている。
チームとしてはオープン参加、個人の記録も参考記録ではあるが、2017年には10区を走った東京国際大の照井明人(現NDソフト)が「幻の区間賞」を獲得するなど、隠れた実力者も多い。また、なかなか普段の箱根路ではユニフォームを見ることができない大学のランナーも多く、判官贔屓のファンには実に楽しみなチームなのだ。
浪人生活をしながら1日20km近くを走った
今大会の注目は、まずは何と言っても1区を走る東大の近藤秀一だろう。
前出の予選会では箱根出場校の選手以外ではトップとなる59分54秒の記録で20位。一流ランナーの証でもある20km60分切りも達成し、本人も本戦へ気合は十分。
「まずはメンバー入りできて安堵の気持ちが強いです。本番も1区が上手くいけば2区以降の選手の安心感も違うと思うので、東大の存在感を示したいですね」
近藤の前に箱根路を駆けた東大生は、2005年の松本翔(現日税ビジネスサービス)まで遡る。その松本は、現在の近藤の力についてこう分析する。
「近年の大学駅伝のレベルは僕らの頃より大きく上がってきています。注目度も上がり、有力選手を集める大学も増えた。僕は予選会の記録が61分20秒でしたから、単純に近藤選手はそれよりも大きく力が上でしょう」
高校時代から強豪校で活躍していた松本のケースとは違い、近藤は静岡の県立高校出身だ。現役で東大を受験した際には不合格となり、浪人生活をしながら1日20km近くを走り込んでいたという。
「自分にもある程度の力があるとは思っていましたけど、上に行くとその分本当に強い人の力も見えてくる。だからこそ、『自分にしかできない道を』という想いが強くありました。強豪校からも声をかけてもらいましたけど、やっぱり陸上も勉強も妥協せずにやりたいことをやりきろうと思ったんです」
そうして東大の理科二類に合格し、進学。現在は工学部で化学生命工学を専攻中だ。
文武両道という面が注目されがちな近藤だが、特筆すべきはその走力の高さだ。2月には東京マラソンに挑戦し、2時間14分13秒の記録をマーク。トラックの記録も各校のエース級と遜色なく、本戦ではチームに勢いをつける走りを期待されている。
もちろん一般的な強豪校とは違い、ひとり暮らしで食事も自炊、家庭教師のアルバイトもしている。競技面から見れば決して恵まれた環境ではないが、そんな中でも近藤は自分の道を模索し続けている。
「自分で考えて練習メニューを作るとか、固定観念にとらわれないことができるのは東大の良さだと思います。箱根を見るファンのみなさんも、みんながトップの選手から影響を受けるわけではないと思うんですよ。強豪校とは違う環境でもこれだけやれるんだというのを見て、少しでも陸上競技や箱根駅伝に憧れをもってもらえたら嬉しいです」
また、今年の学連チームは箱根駅伝の“華”でもある5区の山登りにも注目だ。
1年生で5区を走る筑波大・相馬崇史は、高校駅伝の超名門である長野の佐久長聖高校の出身。3年時には主将も務め、全国高校駅伝で準優勝も経験している。当然、進学に際しても多くの強豪私立校から声がかかった。だが、相馬が選んだのは箱根駅伝からは遠ざかっている国立の筑波大だった。
「将来的にマラソンに挑戦したかったんです。そういう軸で考えて、いろいろ話を聞いてみた中で、『自分で考えて競技をする』という要素を大事にしている筑波大が一番、自分に合っていると感じました」