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「あまりにも辛くて、兄を殺すことすら考えた」悲惨すぎる家庭内暴力の実情…被害者が考える“最も現実的な解決策”とは

2022/09/13

genre : ライフ, 社会

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母親と一緒に逃げようと思っていたが……

 兄に何らかの異常があるのはわかっていたから、治療を受けさせるべきだということも知っていた。しかし、大人の男性と変わらない体格を持つ人間が暴れていて、さらに説得に応じる気もまったくないというのに、どうやって病院まで連れて行けばいいというのだろう。仮に睡眠薬か何かで眠っている間に運ぶことができたとしても、彼が目覚め、病院から帰ってきたときにどんな報復を受けるかを考えれば、それ以上は恐ろしくて想像したくもなかった。

 では、私と母親が逃げる方法はどうか。それも全くもって現実的ではなかった。高校生くらいになってからは、母親に何度も「一緒に逃げよう」と持ちかけたが、母親が頷くことはなかった。「あの子は本当はいい子なの、私が最後まで責任を持って面倒を見ないといけないの」と言いながら泣く母親を不憫にも思った。

 そもそもうちには月々の生活費すらないのに、実家とは別に部屋を借りる余裕なんてどこにもありはしなかった。「家から逃げたい」——その一心で始めたアルバイト代も脅し取られるか吸い上げられるかして、私の手元には残らなかった。

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親子間の共依存関係

 母親と兄、母親と私はそれぞれ、共依存の関係にあったのだと思う。母親は私が家から逃げようとしていることを知ると、いつも激しく取り乱した。「あんたが助けてくれないとこの家はどうなるの」「あんたはいいわよね、いつでも逃げられるんだから」「あんたなんか大したことないじゃない、私のほうがしんどいのよ」と泣いたり怒ったりして、私を家に縛りつけようと必死に取りすがった。

 今振り返れば、このとき母親の言うままに逃げるのをやめ、一緒に破滅への道を進んでしまったことが、失敗だったのだと思う。私も母親も精神を病んでしまったのだ。特に私の場合は子どもの頃から長年、兄からの暴力を受け続け、なおかつ治療が遅れたため(心療内科で通院治療を開始したのは実家から逃げてから数年経った、25歳の頃だった)、精神に障害が残ってしまった。