イギリスの君主として歴代最長となる70年にわたって在位してきたエリザベス女王が、9月8日、96歳で亡くなりました。今年、英王室史上初の在位70年という大きな節目を迎えましたが、ここまでの道のりは平坦ではありませんでした。2020年、ヘンリーとメーガンが発表した「王室離脱」——。実はこの騒動の背景には、エリザベス女王とのメーガン妃の対立があったのです。ジャーナリスト・近藤奈香氏による「小室圭さんはメーガン妃よりマシ!? メーガン妃vs.エリザベス女王全真相」の一部を公開します。(「文藝春秋」2020年3月号より)
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「ダイアナ妃の死後、王室最大の危機」
「私たちは王室の主要メンバーの地位から退きます」
1月8日、英王室のヘンリー王子とメーガン妃が突然、インスタグラムで「王室離脱」を発表し、世界に衝撃が走った。
2人は、「王室の中で、新しく革新的な王族のあり方を樹立する」と宣言。「経済的に自立する」、「今後は英国と北米を行き来しながら生活する」、そして「今後も引き続きエリザベス女王を支えていく」と自分たちの希望を訴えた。
この発表については、エリザベス女王も知らされていなかったという。昨年来、2人から内々に希望を聞き、話し合いに応じる意向を示していたにも関わらず、である。
この電撃的な「王室離脱」をメディアは大々的に報じた。
「過去30年で英国王室最大のニュース」(デイリー・テレグラフ紙)
「ダイアナ妃の死後、王室最大の危機」(NYタイムズ紙)
挙式からまだ2年もたっていないカップルの一方的な「王室離脱」宣言に対する、英国民の視線は冷ややかだった。メーガン妃が王室に入り、離脱を発表するまでの公務実績はわずか72日間にすぎず(ヘンリー王子は同じ期間に153日)、王族としての特権は維持しながら、公務などの責任を果たさない「半公半民」の立場は、極めて都合のいい考えだと受け止められ、国内での2人の好感度は急降下した。ヘンリー王子は71%から55%、メーガン妃は55%から38%と、いずれも大幅に下落し、今回の騒動を主導したとみられるメーガン妃を「嫌い」と答えた人は、35%から49%に急増した(世論調査YouGov調べ)。
こうした世論を受け、エリザベス女王の対応はすばやかった。
発表からほどなく、2人の決断を「初期の段階」とし「検討に時間を要する複雑な問題」と短文の声明を発表。さらに「数日以内に事態を収拾する」との意向を示し、1月13日には女王の私邸サンドリンガム・ハウスで緊急家族会議(「ロイヤル・サミット」)が開かれ、チャールズ皇太子とウィリアム王子、ヘンリー王子が集った。
しかし、そこにはマスコミの目から逃れるようにカナダに渡ったメーガン妃の姿はなかった。当初はテレビ電話で参加するとみられたが、盗聴などの恐れもあるため不参加となったという。
2時間に及ぶ話し合いの中で、ヘンリー王子夫妻が歳費を返上することが決まった。ただし、夫妻の収入のうち返上する歳費は5%(約1500万円)に過ぎず、残り95%(約2億8000万円)は、チャールズ皇太子が所有するコーンウォール公領の収入からの充当金で、当面の間維持される。
「私と家族は、ハリー(ヘンリーの愛称)とメーガンの若い家族として新しい人生を築きたいという願いを全面的に支持します」
ロイヤル・サミット後に女王が出した声明には、これまで女王が声明で使っていた「サセックス公爵夫妻」の文字はなく「ハリー」と「メーガン」という呼び方に変わっていた。
称号「剥奪」に次ぐ判断を下したエリザベス女王
「2020年春以降、ハリー王子とメーガン妃は公務から引退し、王室の称号(殿下・妃殿下)も使わない」
サミットから5日後、エリザベス女王が下した結論は事前の予測を上回る厳しいものだった。
「王冠をかけた恋」で知られ、離婚歴のあるアメリカ人女性シンプソン夫人と結婚して退位したエドワード8世も王室の称号(殿下)は認められていた。“称号剥奪”は、チャールズ皇太子と離婚したダイアナ妃などの例に続くものだ。
ダイアナ妃の悲劇により激しい非難にさらされた英王室が、ヘンリー王子夫妻の称号を“奪う”ことはないとみられていた。しかし、エリザベス女王は、「(本人たちの了承のもと)称号を使わない」という形で「剥奪」に次ぐ判断を下したのだ。
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