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 相変わらず、意識は朦朧としていた。県内の感染者数は連日千人を超え続けていたが、一時よりは減少している。知り合いが感染したときは、陽性判明の翌々日にはホテルに移れていた。私もこの電話で希望すれば、すぐ移動できるだろう。

医師は「保健所に聞いて下さい」 たらい回しにされ…

 そう期待していたが、医師は詳しい症状を聞くことはしなかった。前日の県職員からの電話とほとんど変わらない、持病の確認などで問診が終わりそうだったため、こちらから体調の詳細を説明した。「ホテル療養がしたいんです」。そう伝えたが、「ホテルについては保健所に聞いて下さい」と告げられ、保健所からの電話を待つよう指示された。

沖縄の離島にワクチンを届ける ©共同通信

 県職員は、医師が判断するからと説明していた。話が違う。

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 体調は明らかに悪化している。不信感が拭えず、保健所からの電話を待たずに自宅療養者用の窓口に電話をかけた。

「ホテル療養がしたいんです」。3回目の要望を伝えた。のどが痛くて、時々声がうわずる。電話の向こうで、男性職員が困った調子で答えた。

「まだ陽性者として登録されていないようです」

 愕然とした。39度の高熱が出て3日目、陽性者の登録申請をして丸1日が経っていた。

「県職員からも、医師からも電話はかかってきた。申請内容の確認をしたんですよ。そもそも、登録されていなければ、医師から電話があるはずがないのでは」

 必死の思いだったが、「明日もう一度電話してくれますか」と言われ、力尽きて問答を諦めた。苛立ちがこみ上げてきたが、もう期待せず、これ以上の体調悪化を感じたら救急車を呼ぼうと決めて、ひたすら眠り続けた。

県から電話「まだ陽性者登録されていない」に苦笑

 翌日、胸の痛みは強くなったが、やっと微熱程度まで熱が下がった。久しぶりに空腹を感じて作り置きの炊き込みご飯を口にしたが、味覚がなくなっていることに気付いて驚いた。それでも普通に立って歩いたり、食事を取ったりできることがうれしかった。

 その日、県から電話が入った。「ホテル療養を希望しているようだが、まだ陽性者登録されていない」。苦笑するしかなかった。

「○○○さんですよね」「高齢者の方と2人暮らしですよね」。名前は似ているだけで、違っている。生活環境も、何度も一人暮らしだと説明したのに。

 正確な情報を伝え直すと、職員は混乱したような、納得のいかないような様子で電話を切った。さらにその翌日、「まだホテル療養を希望していますか」と電話を受けたが、断った。

 現在は自宅療養期間を終えて、復職もできた。味覚・嗅覚も戻り、感染前の生活に戻った。

 余談だが、沖縄は先日、大型で強い台風11号に襲われた。一部自治体では避難所が開設され、ケータイ電話には避難所開設を知らせるメールが入った。その中には、自然災害の恐れがある地域に住む自宅療養者には宿泊療養施設を案内しているという内容の記載があった。

 急な台風で用意できるなら、やはり意識障害に苦しんだあの数日間にも対応できたのではないか、初動の聞き取り記録のミスで手配されなかったのではないかと、県への不信感は残ったままだ。