「演奏会の日を後ろにずらすことは検討しましたが、3年生は部活が終われば受験など、進路の準備に入る必要がある。それを後ろ倒しして生徒たちに迷惑をかけることはしたくありませんでした。福祉コースの2年生の実習の時期なども考えて、ここしかないというタイミングが8月21日でした」
2022年夏の聖光学院のブラスバンド部は、3年生が2人、2年生が3人、1年生は0人という小所帯だ。甲子園の1回戦では、部員5人に弓道部から助っ人で参加した1年生ひとり、梅野教諭も加わって7人編成で演奏している。
一方、硬式野球部は部員110名を誇るまさに学校の“看板”部活である。桁違いの部員数は、そのまま学校内のパワーバランスを表している。ブラスバンド部が演奏会のために甲子園応援に参加しないことについて、批判的な意見が梅野教諭のもとに届くようなことはなかったのだろうか。
「直接何かを言われることはありませんでしたね。ただ私自身が気にしすぎだったかもしれませんが、『行かないのか』という雰囲気を感じることは正直ありました……(苦笑)。甲子園で記者の方に2回戦以降は応援に参加しないことをお話しすると、みなさん『えっ?』という戸惑いの表情をされていました」
野球部は110人、ブラスバンド部は数名でも
野球部が準決勝で敗れた翌日、演奏会は無事に実施され、万全の準備の甲斐あって盛況のうちに幕を閉じた。引退した3年生に代わって部長に就任した高橋明花(はるか)さんは振り返る。
「演奏会も初めての試みで、手を抜きたくなかった。できるだけ私たちの音楽を届ける努力をして、可能な限りみなさんに聴いてもらいたかった。自分たちが成長できたという想いができるような演奏をこれからもしていきたい」
夏の甲子園に出場できる学校は全国でもわずか49校しかない。だからといって、アルプス席での応援を在校生に強制すべきではない。部員110人の野球部も、わずか数名のブラスバンド部も、同じ部活動である。優先すべきなのは、その学校に通う生徒ひとりひとりの青春だろう。
《なんで野球部の応援のために吹奏楽部が客席で応援するの?》
こうしたアンチツイートに対するひとつの回答が、聖光学院のブラスバンド部の勇気ある決断だった。
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