「甲子園に行かない決断をしたのは今年が初めてです。理由は、8月21日に予定していた独自の演奏会に全力を注ぐため。というのも、甲子園応援は部員の負担がとても大きいんです。8月9日の1回戦では、8日の夜にバスで福島を出て車中泊で甲子園に向かい、9日に甲子園で演奏したあと、そのまま車中泊で福島に戻るという“0泊3日”の強行日程でした。大事な演奏会を控えるなか2回戦以降も応援するとなると、3回戦、準々決勝は連泊になる。いつ福島に戻ってこられるかもわからず、2回戦以降は現地での応援をしない決定をしました」
今年の甲子園は雨による順延が1日もなく、準々決勝が8月18日、準決勝が8月20日、決勝が8月22日というスケジュールで行われた。一方、ブラスバンド部が「ふくしん夢の音楽堂」で予定していた演奏会は、決勝前日の8月21日だった。
甲子園で野球部の応援を続けながら、慣れない宿泊先で演奏会の練習を重ねることは、練習場所や経済的な負担などを考えればとても現実的ではなかったという。
「1回戦の応援は、野球部の保護者をはじめみなさんに喜んでいただけました。2回戦以降は参加できないことをお詫びすると、『演奏会頑張ってください』と反対に励ましていただけました。もちろん、野球部の監督や部長にも報告をしていました」
「甲子園に野球部が必ず行くとは限りませんし…」
聖光学院の野球部は、過去20年で16回甲子園に出場しており、ブラスバンド部にとっては夏の甲子園での演奏が“卒業公演”に位置づけられていた。
「甲子園に野球部が必ず行くとは限りませんし、コロナの感染状況によっては現地で楽器の演奏ができるかどうかも直前まで不透明でしたよね。コロナ以前のように甲子園での演奏を3年生の引退式にする場合、甲子園に出場できなかったり、出場しても演奏できなかったりすることが3年生部員にとって一番切ないことじゃないですか。特に今年の3年生は入学した時からコロナ禍が続いていて、活動らしい活動ができなかった。生徒たちになんとか人前で演奏する機会を最後に用意してあげたいと考えて、今年初めて演奏会を実施することにしたんです」
演奏会の日程を決めるうえで、甲子園大会の時期を避けるかどうかは部内でも意見が割れたという。しかし最終的には、部員たちの都合を最優先することを貫いた。