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「甲子園で流れた『キセキ』は我々の演奏ではない」聖光学院ブラスバンド部が「美談」を求める高校球界へ投げかける一言《野球部との“対等で新しい関係性”を模索》

「甲子園で流れた『キセキ』は我々の演奏ではない」聖光学院ブラスバンド部が「美談」を求める高校球界へ投げかける一言《野球部との“対等で新しい関係性”を模索》

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2022/09/17

genre : ニュース, 社会

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 その背景には、野球部が“強すぎる”ことも影響しているのかもしれない。聖光学院は過去20年で16度夏の甲子園に出場しており、甲子園出場のイベント感が低下していても不思議ではない。寄付金も潤沢とは言いがたく、応援に参加する生徒の金銭負担も小さくない。

 野球部とブラスバンド部の関係性も、以前は少々ぎこちないものだったという。

「正直なことをお話ししますと、聖光のブラスバンド部は人数が少ないので甲子園や福島大会で演奏しても相手校に見劣りすることも多く、野球部ファンの方々があんまり喜んでいる印象はありませんでした。特に甲子園では『聖光だけ人数が少なくて、恥ずかしい応援をするんじゃないよ』と言われたり……。ただコロナ禍で応援ができない時期もあったことで、最近では逆に喜んでもらえるようになった感覚はあります。特に今年の野球部員は一度も楽器による応援を経験していなかったので、甲子園の1回戦だけでしたが野球部員から非常に感謝されました」

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ブラスバンド部顧問の梅野和生先生 ©柳川悠二

 3年生が夏を最後に引退し、新たに部長となった2年生の高橋明花(はるか)さんは、楽器を始めたのは高校からで、アルトサックスを担当している。東京の名門・日大三との甲子園1回戦は、ブラバン応援の人数では圧倒されたが楽しかったと話す。

「音量ではかないませんから、まずは自分たちが一番楽しむんだという気持ちで演奏しました。音楽が好きでブラスバンド部を選んだので、最初は甲子園での演奏は頭にありませんでした。でも参加してみて、大切な思い出になりました。私自身は2回戦以降も応援したい気持ちがあったんですが、3年生たちにとって最後になる演奏会も万全の準備で臨みたかった」

4人での練習は広々としている ©柳川悠二

「甲子園に向かうバスはぎゅうぎゅう詰めで、ちょっとしんどかったです(笑)」

 同じ2年生の東海林(とうかいりん)梨奈さんは、初めての甲子園応援をこう振り返る。

「甲子園に向かうバスはぎゅうぎゅう詰めで、ちょっとしんどかったです(笑)。応援はみんながひとつになって団結力が感じられた。やっぱり嬉しかったです。2回戦以降は演奏できなかったんですけど、野球部さんに『ありがとうございます』という感謝の言葉をもらって、ちょっと申し訳ない気持ちがありました。来年また野球部が甲子園に出場したら、もう一度参加したいです」

 部員である2年生の寺島愛日(まなか)さんや、助っ人で参加した1年生の神野彪(きょう)くんも、「2回戦以降も応援したかった」と口にした。再び、梅野教諭が話す。

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