分散化する日本社会
先崎 成田さんの本は章立てのタイトルがはっきりしていますよね。第1章は「故障」ということで、民主主義と資本主義というアクセルとブレーキの組み合わせが破綻してしまっていること、その影響で経済成長もうまくいっていないことを、データを参照しながら解説されています。第2章は「闘争」、第3章では「逃走」、それから最終章が「構想」という章立てになっています。第2章の「闘争」では、現代の民主主義の選挙制度の在り方に対する違和感などが表明されていると思うのですが、そのあたりを解説いただけないでしょうか。
成田 民主主義と資本主義のタッグの機能不全を作り出しているいくつかのチャンネルがある場合、その問題を直接解消するような処方箋にはどんなものがありえるのか。それを主に議論しているのが第2章です。
この四半世紀、いわゆる民主主義と資本主義を代表してきたような欧米の先進諸国、そして日本が、なぜ経済的なパフォーマンスでうまくいっていないように見えてしまうのか。おそらくインターネット産業の勃興がすべての根本である可能性が高いです。ざっくり言うと、インターネットによって、コンピュータ産業がただの情報と計算の産業から、コミュニケーションの産業に変貌した。コミュニケーションというのは、言論であり表現であり、そして発言でもある。
民主主義的な国々というのは、この手の表現全般に対する自由をアイデンティティとしてきた国々です。だからここ15年から20年くらいで人類がつくりあげてきたインターネット産業の影響を一番受けたのが民主主義諸国でした。民主主義における表現の自由と、インターネット産業が作り出した超大人数同期コミュニケーションとの化学反応によって、民主主義の前提条件がだいぶ崩れてしまった。つまり、みんながそこそこ正確な情報を共有していて、それに基づいて議論が行われて、そしてその議論はそこそこ冷静なものでなければならない、という前提が崩れたんです。
現代は、人によって見ているものがまったく違うし、フェイクニュースもヘイトスピーチもやり放題になっている。ひとりのインフルエンサーがなにかを発言すると、それに同期してばーっと拡散してしまうタイプのコミュニケーションが可能となってしまった。実際ここ15年間くらいで、民主主義的な国ほど、政治家とか政党とかがマイノリティに対するヘイトスピーチを公然とするようになってしまっている。それから、外国を悪者にして貿易戦争を仕掛けることで、ちょっと右に寄った世論の興奮をつくりだしていく典型的なポピュリスト的言説も、やはり民主主義的な国ほど増えている傾向があるんですよ。
そしてこの変化が経済にまで波及してしまったことも重要だと思います。たとえば経済政策も、トランプの中国との貿易戦争が象徴するように、自国第一主義的な政策がとられる傾向がつよまった。さらに未来に向けた資本投資みたいなものも、民主主義的な国ほど減っている傾向があるんです。未来や他者に対して開かれた経済活動みたいなものが、民主主義的な国ほどおこりにくくなってしまった。
インターネットが作り出したコミュニケーションと情報環境の変容というのが、まず政治の世界を変えてしまい、さらに経済の世界まで変えてしまった。これがたぶん問題の背景にあるんだろうなと思います。
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成田悠輔さん、先崎彰容さんによるウェビナー対談の「【テキスト版】成田悠輔×先崎彰容 「『22世紀の民主主義』に希望はあるか」全文、および対談フル動画は「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
【フル動画】成田悠輔×先崎彰容 「『22世紀の民主主義』に希望はあるか」