「被害者らが結託してやめさせるよう仕向けたとする思い込みには全く根拠がなく、そのいきさつに酌むべき点はない」
9月14日、大阪高裁は2020年10月、兵庫県神戸市のヤマト運輸の集配施設で男女2人を包丁で襲い死傷させたとして、殺人などの罪に問われた元パート従業員・筧真一被告の控訴を棄却する判断を示した。
1審で神戸地裁は筧被告の犯行動機を、被害者女性への恋愛感情や男性従業員への不満などから「2人が結託して被告を退職に追い込んだと思い込んだ」などとし、懲役27年を言い渡していたが、筧被告側が控訴していた。
事件当日、警察が現場に駆け付けると、被害者の女性の腹には包丁が刺さったままだったという。事件の背景に一体何があったのか。当時の記事を再公開する(初出:2020年10月9日 人物の年齢、肩書などは当時のまま)。
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「ギャー」という悲鳴の後に聞こえたのは、「おまえも殺したる」という怒声だった。
兵庫県神戸市の山あいにあるヤマト運輸の集配施設「神戸北鈴蘭台センター」。10月6日午前4時すぎに事件は起きた。まだ暗い中、突然押しかけた1人の男が出勤直後のパート社員の女性(47)と男性(60)に次々に襲いかかったのだ。全身十数カ所を包丁で滅多刺しにされた女性はその場で死亡。もみ合いながらも必死に逃げた男性の通報で警察が駆けつけ、男は逮捕された。
筧真一容疑者(46)。事件前日の5日に2年半働いたこのセンターを解雇されたばかりの男だった。被害に遭った2人とは前日も一緒に働いていたという。
叫び声を上げ、右手に包丁を握りながら向かってきた
「男性は驚いたやろな。叫び声を上げて右手に包丁を握りながら自分に向かってくるのは昨日までの同僚やったんやから。その時は最初の悲鳴を上げた同僚の女性は既に息絶え絶えやったはず。出勤直後に車から降りたところを刺されていて、驚く間もなかったと思う」(捜査関係者)
筧容疑者は逮捕後、兵庫県警の調べに対し、2人を狙って襲ったことを素直に認めた。
「解雇されて腹が立っていた。あの2人のせいでクビになったと思い、殺すつもりだった」
そう供述したという。
いったい事件前日に何があったのか、県警幹部が説明する。
「けんかだ。筧容疑者は以前から勤務態度が悪かったそうだが、5日朝にこの男性から荷物の仕分け作業が雑だと注意され、取っ組み合いになりかけた。殺された女性が仲裁に入ってけんかは止まったが、その際に筧容疑者が振り回した手が女性に当たった。ヤマト側はこれを暴力沙汰と判断し、決定的な理由として即日クビを告げたようだ」