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「あいつなら大丈夫」元ベイスターズ須田幸太が振り返る2022年の今永昇太と三嶋一輝への思い

文春野球コラム クライマックスシリーズ2022

2022/10/15
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 野球は8割9割がピッチャーで決まってしまうと言いましたが、野手たちが僅差のゲームをものにしたことももちろん大きい。負けているチームって、逆転できないんです。春の横浜商科大がそうで、負けてる試合は0-1とか1-2とか2-3とか。秋は暫定首位(※取材時)ですが、勝ってる試合は野手が頑張り4-3とか6-4とかに持ってきている。春と秋の違いは、先制点を取られてないところ。あとは2点で負けてる場面で、絶対に追加点を取られないようにすること。1点取って1点差にしようと教えています。たとえば1-3で負けてる時に、1-4 になるのと 2-3になるのとでは、中盤の試合展開が大きく変わってくる。1-4になると相手のピッチャーはすごく精神的に有利になり、でも 2-3になると、実際は1点差で負けてるのに精神的にはこっちの方が有利になる。先制点を取られないこと、2点差のゲームで追加点は自分達が取ること、それは徹底させています。

 大学生を教えていて思うのですが、今は知識が豊富な学生がいっぱいいます。ただ要らない知識、使えない知識も多い。間違った練習方法ばかりをやっている選手もいます。168cmの選手が、ダルビッシュのフォーム動画を真似しても、うまくいくはずない。私はまず全員同じ練習をさせます。そしてスピードを上げることより、コントロール(リリースの感覚、ボールに力を伝える技術)を磨くように指導します。スピードは体ができてくれば自ずと上がるので。そしてスピードガンを見なくなった選手が、今頭角を現している。

 私が大学生の頃は……みんなセンスだけでやってました。みんなセンスでプロ野球選手になったから、大半は成功できなかった。ほんと、一発屋だったなって。本当に大事なのは継続力なんです。正しい練習をしっかり継続できる選手がどのステップでも活躍してます。おそらくベイスターズのトレーナー陣はそれができているから、選手が伸びてきたんじゃないでしょうか。私が現役の頃は岡本克道コーチに最初はいやいややらされていた練習を、結局は2年半やり続けてコントロールがよくなりました。先日岡本コーチに電話して「学生に3ヶ月ぐらい同じ練習をさせていますが、選手がまだ疑心暗鬼なんですよ」と話したら、「まだ3ヶ月じゃん、そんなもんだよ。お前何年やったんだよ」と言われました。コーチやトレーナーの言いなりになるということではなく、それを絶対にやらなきゃということではなく、とりあえずやってみて、続けてみて、その先で「これは合ってないから捨てよう」という選択ができる選手は伸びますよね。それが面倒くさいからではなく、自分に合ってるか合ってないかをしっかり理解できる選手はどのステージでも活躍するんじゃないでしょうか。でも私がそのことに気づくのはだいぶ経ってからです。

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三嶋のことは「あいつなら大丈夫」って思ってます

 コーチ、トレーナー、監督、選手。「個」というよりはそれぞれがそれぞれの仕事を頑張った結果の、2位という成績だったのではないかと、あらためて思います。そこにはもちろん、この人の存在も大きい。三嶋投手の病気が発表されたときは、正直なんて言っていいか分からなくて、何のメッセージも送れなかった。三嶋には毎年必ず年始に「頑張れよ」ってメールを送っているのに。軽いことは言えないです。でも本心は三嶋だから大丈夫って思ってる。彼の性格や人間性を知ってるから、あいつなら大丈夫って、本心では思ってます。

2016年秋季キャンプ、特守を受ける今永昇太(手前)、須田幸太(左奥)、三嶋一輝(右)

 三嶋って、懐に入ってくるのがすごくうまいんですよ。でもしっかり気は使ってる。今はなんて声をかけていいか分からないけど、たぶん本人は「そんなこと気にしなくていいよ」と思ってると思います、それは間違いない。6年一緒に野球をやって、ごはんも行ったし、温泉にも行きました。気を使ってるなと思ってたら胸襟を開いて接してくるし、人間力が高いんです。「僕は人と人の間に入っていくのが上手い」と自分で言っちゃう三嶋なら大丈夫だと信じています。

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