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「あいつなら大丈夫」元ベイスターズ須田幸太が振り返る2022年の今永昇太と三嶋一輝への思い

文春野球コラム クライマックスシリーズ2022

2022/10/15
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 今、平日は会社員、土日は横浜商科大でコーチをしています。監督の後ろで試合を見る日々の中で、現役の時よりずっと「野球」を知った気がします。時々ベイプラの解説をさせてもらって、よりそのことを感じています。

筆者・元ベイスターズの須田幸太(本人提供)

「今永が復活してる」という空気がターニングポイントだった

 野球は8割9割がピッチャーで決まってしまうというのは、動かし難い事実です。今年のベイスターズが最下位から2位に上り詰めた要因も、やっぱりピッチャーにあったと思います。その中心にあったのは、今永投手でした。結局先発ピッチャーがしっかり試合を作らないことには、中継ぎがどんなに抑えても勝てない。いくら3者連続三振に抑えて流れがきましたといっても、その後逆転して勝てるのは10回に1回くらいの割合です。今年入江投手が57試合を投げて5勝1敗、流れが来て逆転してというのはやっぱり10回に1回です。私も62試合投げて5勝3敗でした。

 シーズンが終われば「あの試合須田が投げたら流れきた」とか「入江の好投が勝ちを呼んだ」とか、抽象的な表現で言ってもらえる。でもそれは完全に後付けなんですね。やっぱり先発がちゃんとしないことには試合は勝てないと思います。

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 先発の好調が、勝ちパターンの要因を増やし、中継ぎ陣の好調を連れてくる。伊勢投手も仕事を完全に固定できたことが大きかったのではないでしょうか。それが2016、17との違いでもあるのでしょう。後ろにしっかりしたピッチャーがいっぱいいて、その布陣が崩れない、さらに先発がしっかりしている。特に2016と今年で違うのは、中継ぎが負けてないってところです。あの年は私も(田中)健二朗もたしか3敗してます。ということは2人で6敗。そこが2位と3位を分けたところかなと。

 私自身8月はドキドキしながらベイプラの解説をやっていました「俺が解説の時に負けないでくれ」と思いながら。8月の選手はもう勝つイメージしかなかったんじゃないでしょうか。そして勝ちをイメージできるってすごく大事。3連勝、4連勝……となった時に、次の試合で先制すれば「あ、今日勝ったな」と思える。それが、勝って負けて負けて勝って……みたいな時は、どうしても負けのイメージがちらつく。そういうメンタル的な部分でも8月は「今年は行けるぞ!」という感覚があったのではないかと思います。そのイメージはおそらく前半にはなくて、それぞれの選手の中にそのイメージを変えるような、ターニングポイントとなる試合があったのでは。

 私が見ている限りでは「今永が復活してる」という空気がチームのターニングポイントだったように思います。今永投手は……いつかノーヒットノーランやるだろうなとは思ってました。今永投手は冷静で、もちろん熱い気持ちは持ってるんですが、性格的に三浦監督寄りだと思います。普段の性格は全然違いますけど、野球になった時には「三浦イズム」なんですよね。三浦イズムとは、もう淡々と、何にも左右されず投げること。2人ともガッツポーズはしますけど、すぐ切り替えられる。ピッチャーは1回ガッツポーズすると、その後なかなか切り替えられないんです。テンションがガーッと振り切っちゃって、上がった分、今度は平常時より下がってしまう。だからピンチを抑えた後の中継ぎは、回またぎすると打たれることが多いんです。昇太の場合は上まで行くんだけど、戻るところは平常ライン。

 試合では必ず3回はピンチがあります。そのピンチを抑えた時に切り替えられない投手は先発には向かない。私は大学生にも「9回3失点でいいよ」と言います。抑えてるピッチャーはそれが分かっているから、7回1失点、2失点にまとめてくれる。一方ダメなピッチャーは0点に抑えたい気持ちが強すぎて、1点取られると2点目3点目とずるずるいってしまう。今永投手はそういうところが非常に優れていると思っています。

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