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移籍か残留か…ファイターズ・近藤健介選手の“決断“を前に私たちができること

文春野球コラム 日本シリーズ2022

2022/10/25
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ファンの心が簡単にぐらぐらと揺れる

 今年の7月、近藤選手は海外FA権を取得した。行使についてはシーズン後に「迷ってます」と話した。

 日本シリーズが始まる少し前、スポーツ紙には「行使決断」の文字が躍った。私が担当するHBCラジオ・ファイターズDEナイト!!には、「残留してほしい」というメッセージが溢れ、「近藤選手を引き留める為に番組で呼びかけませんか」という提案のメールも届いた。

 何年かごとに誰か選手がFAを行使するという時にこのような内容のメッセージを受け取る。その度に私は言葉を選びながら話す。行ってほしくないのは私も同じ思い。出来るならみんなで呼びかけたい。だけど、これは選手が勝ち取った権利。選択に口出しすることは家族以外は出来ない。その選手が決めたことを受け入れるしかない。残留という選択肢もあるのだから。

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 私自身はフリーだが、年齢を重ねた友人たちがキャリアを積み、更なる高み、あるいは自由を求めて転職や独立をする姿が最近増えてきた。そのきっかけになるのは、外部からの評価の場合も多いという。同じ場所にいると、成果を上げても当たり前と思われ特に声をかけられることも少なくなる。自分の実力はいまどのくらいなのか、もし他の場所ならどんな風に働けるのか。FA宣言をする選手の口からよく聞く「自分の評価を聞いてみたい」という言葉と重なるなと彼らの話を聞く度に思う。

 10月20日のドラフトで、ファイターズは単独1位指名で日本体育大学の二刀流、矢沢宏太選手の交渉権を獲得した。その夜のテレビ番組に新庄剛志監督が出演し、「……外野に矢沢くん、五十幡くん、松本くん……そこに淺間くん、万波くん、今川くんが……」と話した。この時、最後まで近藤選手の名前が出てこなかった。

 ファンの心が簡単にぐらぐらと揺れる。まだ近藤選手は何ともいっていないのに、と。

 翌日の新庄監督のInstagramに「エスコンフィールドで近藤君と一緒に野球が出来るように」というフレーズを見つけてもまだファンの心は揺れ続けた。

 同期の松本剛選手が近藤選手について話してくれたエピソードが私は大好きだ。

「入団したころ、練習じゃない時もずっとボールを持ってるんですよ。スーツでみんなでどっか行くときもずっと。いまでもこんちゃん見てると、ほんとに野球好きなんだなって、心から思うんですよ」

 私の頭の中に天秤がある。左は移籍、右は残留のFA天秤。

 私は近藤選手がファイターズのユニフォームを着て新球場にいてくれるのを願っている。優勝するまでの姿、日本一になった時の笑顔まで細かく細かく想像している。

 私の頭の中の天秤はいま、左があがり、右が地面すれすれだ。

 この天秤は日々の報道で傾きが変わるだろう。そしていずれ来るその時はもう待つしかない。「近藤選手の決断」という決定的な錘が、右と左のどちらに乗るのか、それがいつなのか。もうそれは、いい子にして待つしかない。

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