ヒーローインタビューという名の「定例会見」を開く村上

 巨人のリーグ優勝の可能性が完全に消滅しました。

 残り7試合(9月20日現在)でCS進出の可能性は残っていますが、首位・ヤクルトとは11ゲーム差の3位。この重い現実がズシリとのしかかってきます。

 シーズン中、よく耳にしたのは主砲・岡本和真選手に対する批判の声です。なかなか打率が上がらず、とくに7月は月間1本塁打、3打点とふるいませんでした。8月11日からは四番打者の座を他の選手に明け渡しています。チームが勝てなければ、主砲が批判を浴びる。それは巨人の宿命なのかもしれません。

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 でも、よく考えてみてください。今年の岡本選手は、それほど悪い成績でしょうか?

 133試合 打率.257 29本塁打 80打点 1盗塁 89三振

 9月に入って盛り返している事情はあるものの、十分な数字だと感じます。「チャンスに弱い」という批判も耳にしましたが、得点圏打率も.288と結果を残しています。

 巨人の「四番・サード」は、それだけ求めるものが高くなるのかもしれません。長嶋茂雄終身名誉監督、原辰徳監督も、現役時代は過剰なファンの期待と戦ってきました。とくに原監督は、一人で「ON(王貞治ソフトバンク会長、長嶋終身名誉監督)」クラスの活躍を求められ、理不尽な評価を受けてきました。

 でも、いざ原監督の現役時代の年度別成績を眺めてみると、「いや、十分やってるじゃん!」と感じてしまいます。今の岡本選手の状況とそっくりなのです。もし、この成績の選手がいなくなったら、巨人はとんでもないことになっていたはずです。

 今年はさらに「間が悪い」と思える条件がそろっています。そう、ヤクルト・村上宗隆選手の覚醒です。

 131試合 打率.330 55本塁打 132打点 12盗塁 112三振

 あらためて見ると、とてつもない数字です。得点圏打率は.363……。あまりにもヒーローインタビューに呼ばれるので、今や「定例会見」と呼ばれているそうですね。

 年下のライバルチームの主砲がこれだけ打っていれば、我がチームの主砲も……と求めるハードルが高くなってしまうのかもしれません。

岡本和真

岡本と丸の本塁打数を足して村上に並ぶ現実

 でも、みなさんも心のどこかでもう気づいているはずです。今年の村上選手と比べてはいけない、ということに。

 本塁打数はセ・リーグ2位の岡本選手(29本)と同3位の丸佳浩選手(巨人/27本)の本数を足して、やっと村上選手を越せるのです。打点数は2位の大山悠輔選手(阪神/85打点)と47点差。打率は2位の大島洋平選手(中日/.316)に1分4厘差をつけています。これほどぶっちぎりの三冠王など、過去にいたのでしょうか。

 そう思って、歴代の三冠王の成績を調べてみました。ぶっちぎり度で言えば、1985年の落合博満さん(元ロッテ)はすごかったです。打率.367は2位と2分4厘差。本塁打52本は2位と12本差。打点146は2位と24点差。打率は落合さんのほうが圧倒的ですが、村上選手の本塁打と打点の突出具合が尋常ではありません。

 もはや、田中将大投手(楽天)の24勝0敗(2013年)、福本豊さん(元阪急)の106盗塁(1972年)に並ぶ、「バグってるの?」と疑ってしまう記録です。2ケタ勝利を挙げた投手に、「24勝0敗と比べたらたいしたことないね」なんて言う人はいませんよね。岡本選手に今年の村上選手クラスの成績を求めるのは、それくらいナンセンスなことだと思うのです。