神宮球場で彼の投球を目の当たりにしてから早8年、私は当時と同じで観客席側の人間だが、彼はやはりチームの主力選手として活躍している。濵ちゃんこと濵口遥大投手。

 今シーズンの彼は、昨シーズンの彼とは別人かと思うほど投球スタイルを変えている。おそらくこれは私だけの感覚ではなく、多くのファンがそう感じているであろう。その背景に何があったのか。そもそも濵ちゃん、最近元気にしてるのかな、色々気になって仕方なかった。なので私は、彼に電話で話を聞かせてほしいとお願いした。彼は二つ返事で「いいっすよー!」と答えてくれた。お言葉に甘えて、私は濵口投手の激変について迫ってみた。

濵口遥大

崖っぷちの状況で彼は考えるのをやめた

 私が彼の投球を初めて見たのは、最初に書いた神宮球場での全日本大学野球選手権、決勝戦だった。私は観客席から彼を見て、「暴れん坊だな」そう思ったのを覚えている。奇跡的にベイスターズでチームメイトになったが、やはりその印象は変わらなかった。濵ちゃんの投球スタイルといえば、感情を前面に出して、とにかく暴れ馬のようにマウンドを捌いていく、というものだ。本人も「前は暴れ散らかしてましたからね」と笑っていたので、これは間違いない。ただ今シーズンの中盤あたりから、所謂クールなマウンド捌きを見せるようになった。それに何より、四死球の激減である。一体何があったのか? 後程その過程は紹介するが、結論から言うと、キャンプからチームで取り組んできたこと……濵ちゃんの気の持ちようが変わったことでそれを体現できるようになった、ということである。

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 そもそも、これは濵ちゃんだけの話ではなく、キャンプからチームとして取り組んできたことの中に、「打たれるのは仕方ないくらいの気持ちで、ストライクゾーンで勝負をしよう。投手有利のカウントを作っていこう」というものがあった。キャンプから行われた意識改革はチームとして浸透していたが、濵ちゃんはシーズン途中まで、なかなかそれを体現できずにいた。

 その要因は「考えすぎ」であったという。シーズン前半は、相手打者のことや、チーム状況、自分の先発としての役割など、様々なことを考えすぎて「~しなければ」という思いに支配されていたという。その結果、彼は自分自身の持っている武器を体現できず、思うような結果を出せなかった。特に、交流戦が明けた後の2試合、彼は炎上してしまった。普通なら、なかなか落ち込んでしまいそうな出来事であるが、ここで負の連鎖にはまらないのが濵ちゃんの強みである。シーズン7登板目となる次の試合でダメなら、色々終わるかもしれないという思いがあった。

 崖っぷちの状況である。

 そんな状況にもかかわらず、彼はあえて、考えることをやめた。やめたのだ。私なら、考えてダメならまた考えて考えて……となりそうなものであるが、彼は考えるのをやめたのだ。

 考えることをやめた彼は、今まで集中していた対象が外部のものであったが、それを自分自身にシフトできたという。相手は二の次と思えるようになったことで「~しなければならない」という思いから解き放たれ、気持ちが楽になった。その結果、自分のやるべきことに集中して試合に臨めるようになったのだ。キャンプから牙を研ぎ続けた暴れ馬が、ようやく野に放たれたのである。進退がかかったシーズン7登板目、チームはサヨナラで敗れてしまったが、濵ちゃんは8回途中1失点の好投、その後の登板も好投を続けていくのである。