文春オンライン

2022/09/30

第二の「起」:井上温大

「阪神の岩崎優投手に似たタイプ」

 井上投手の2019年ドラフト評だ。岩崎投手はこれまた私にとって特別に大好きな選手だ。だから正直、井上投手ご本人のピッチングを見る前から推しを公言してしまった。値札を見ずに買った宝石のような。真価を知る前に、ほんの軽い気持ちで推し始めた。まさに「にわか」からのスタート。

 それが今年8月。東京ドーム。ついに井上投手のピッチングを初めて生で見た。なんだこの投手は……とてつもないじゃないか……! 6回からリリーフ登板し1回2/3を投げたが、「俺の球、打てるなら打ってみ!」と叫ぶかのようなゴン攻め。

 巧打者揃いの広島打線相手に一歩も引く気はなさそうで、テレビで見るより何倍も気迫の火力が強かった。勝手にシャイで物静かなイメージを持っていたから興奮倍増。球団公式SNSのオフショット動画だとカメラに目線を一切くれないのに、マウンドに立つと獲物から一切目をそらさない。完全に狩られる小動物から狩る獰猛な肉食動物に豹変している。

 岩崎投手に似ているというのは一部理解した。下半身のどっしり感とフォームの雰囲気など。ただ、当たり前だがまったく別物だ。あなたにはあなただけの輝きがある。それを目の当たりにして、「にわか」から「ガチ勢」への起承転結がひとつ進んだのを感じた。

9月23日の中日戦でプロ初勝利をあげた井上温大

第三の「起」:大勢

 推しにベタも何もないけれども、やっぱり目立っている人を好きになるのはなんだか悔しい気持ちになる。私だけ? 誰に対しての悔しさ? 何、この感情? 流行りの曲なども、一旦手を出さずに置いておいて、喉元過ぎて世間が熱さを忘れた頃フラットな気持ちで聴きたいタイプだ。

 だけど今季この選手はさすがに避けて通れなかった。新人王に最も近いドラ1ルーキー・大勢投手。ピッチングフォームがまずセクシー。一度つま先立ちみたいになってからグニョッと柔軟な軌道で投げ込んでくるあのフォルム。触手みたい。不思議。

 もともと私はリリーフ大好きマンだ。シーズン当初から新人ながら守護神に抜擢され、あまたの厳しいシチュエーションも「フゥン?」みたいな表情でサクサク封じ込めていく姿にシビれないなんて無理だった。好きになりそう…好きになりそう…という感覚はずっとあり、私の心の牙城が崩れているのは感じていた。

 が、結局決め手となったのはいつか。誤解を恐れずに告白する。Yohji Yamamotoのユニフォーム初戦の9月6日。DeNA・佐野選手に延長11回勝ち越しホームランを打たれた姿だ。あの失意の顔が妙にセクシーで、私の心はついに陥落した。打たれた直後に少し膝に手をついたあとの眼が良い。失意から「ちくしょう」という執念に切り替わる瞬間が良い。この速さで切り替えて後続を断つんだから大勢はガチ。大勢には追い付けない。大勢は宇宙次元。

好きになろう限りなく

「河野さんは平等に野球が好きでいいね」と、たまに言われる。が、フタを開けるとこんなものだ。いつだって一方的でわがままな偏愛。見に行った試合で活躍した選手に自分の人生を重ねたり、はたまた一枚の写真や記事の一文で軽率に気になり始めたり。ファンは自由だ。嘘をついたり攻撃したりしない限り。

 気ままに応援して、それが自分の歌の根拠になり、好きな選手の力に(グッズを買えばお給料に)なるならいい。直江投手、井上投手、大勢投手、恵みをありがとうございます。どうぞこれからも沼らせてください。

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