しかし、劇場版最新作である『沈黙のパレード』では、年月を経て湯川は准教授から教授に昇格。演じる福山も年齢を重ね、相応の落ち着いた大人の雰囲気を身にまとい、重厚なストーリーにマッチしていた。SPA!のインタビューでも彼は「一つの役を長い期間演じられることは実験、研究、追求が出来て楽しい」と語っており、役のイメージをきちんとアップデートしていることがうかがえる。
ちなみに、彼にとって初の映画主演作は、これもまた『ガリレオ』シリーズ初の劇場版となる『容疑者xの献身』(2008年)だった。『沈黙のパレード』は、福山と共演者、スタッフたちが築き上げてきた様式美の安定感と共に、シリーズの集大成とも言える仕上がりとなっている。
俳優・福山雅治が15年かけて実証した真実は
役は歳を取らないが、俳優は年齢を重ねる。彼が47歳の時、映画『SCOOP!』(2016年)でこれまでのイメージを覆すような薄汚れた中年パパラッチに挑戦したように、50代に突入した福山雅治ならではの役柄がきっとあるはずだ。
20代、30代、40代、そして50代。それぞれの年代しか放つことが出来ない輝きだけでなく、この時代を生きる一人の人間としての悩みや葛藤もひっくるめて表現してきた福山。与えられた役を自分のものにして演じ切る柔軟かつ堅固な適応力が、俳優としての魅力につながっているのだと私は思う。
もっとも、シンガーソングライターとして一つでも多くのステージに立ち、一人でも多くの人に歌声と想いを届けることが彼の本分だとは思うが、俳優としてもチャレンジングな姿勢を崩さず、貪欲にトライする姿をまだまだ見たい。
こうして彼の軌跡を振り返ると、今や名実ともに人気シリーズとなった『ガリレオ』が、まさに俳優・福山雅治にとっての“特異点”であり、大きな軸になっているとは言えないだろうか。
「仮説は実証して初めて真実となるーー」。
言うまでもなく『ガリレオ』で湯川が放つ名ゼリフの一つだが、福山雅治は15年という長い年月をかけ、彼が無二の存在感を持つ俳優であるという真実を実証したのである。もちろん、これは通過点にすぎない。俳優・福山雅治の歩みは、人間・福山雅治の歩みでもあるのだから。