1ページ目から読む
2/3ページ目

「私自身は、さほど関与していないから……」

 私はその時、表現しがたい違和感に襲われた。というのも、私が大学に入学した際、自治会や学部の先輩などが、旧統一教会の下部組織である「原理研」に対して、徹底した注意喚起を行っていたことが思い出されたからだ。

 また当時、同級生とその家族が、同団体に苦しめられた経験も鮮明に蘇った。正直なところ、四半世紀以上の時を経ていたこともあり、団体の存在すら忘れていた。

 安倍は私の問いにこう答えた。

ADVERTISEMENT

「私自身は、さほど関与していないから……」

 2021年9月、安倍は旧統一教会の友好団体「天宙平和連合」のイベントにビデオメッセージを寄せている。山上徹也容疑者はこの映像をみて「殺害を決意した」と供述した。安倍は、日ごろから、多忙を極める中でも会場に駆けつける場合と、逆にビデオメッセージだけで済ませる場合がある。こうした使い分けで交流関係に違いを出し、ある種の距離感を滲ませていた。

 そのうえで安倍の言葉を振り返ると、祖父・岸信介の時代における旧統一教会との経緯や、米国との関係などを踏まえつつも、徐々に距離を置こうとしていた様子がうかがわれた。ただ、この話題は結局それ以上続くことなく、その他、参院選の情勢や、派閥「清和会」の現状などについて話をした。

「また明日」と言ったが……

 この時、安倍は選挙や政局は生き物であり、常に急変の危険性を孕むことを指摘した。その言葉を聞いて気になった私は、つい第1次政権と第2次政権、過去2度の安倍の退陣がどれほど衝撃を与えたか、口にしてしまった。すると安倍は「心配しなくても、もう、そういうことはありませんよ」と早口で遮った。

 ひとしきり話を終えると、安倍は「もうこんな時間だ。明日も遊説がある。また明日」と言って電話を切った。

 これが生涯最後の会話になると、誰が予想できただろうか。

 その翌日――。7月8日午前11時35分。安倍銃撃の一報を受けた瞬間、目の前が真っ暗になり、全身が脈打つような錯覚に襲われた。

山上容疑者

 安倍は政治家のなかでも屈指の強運の持ち主だった。伊勢志摩サミットなど、ここぞという場面では雨の予報を裏切って雲を散らし、晴天を呼び込んだ。