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45秒で敗北、左目骨折、顔にはひどいアザが…ゴマキ弟・後藤祐樹が「勝ち目ゼロ」なのに“朝倉未来”と闘った理由

『アウトローの哲学』 #1

2022/09/24
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試合当日

 当日はABEMAの人が迎えに来てくれた。会場は元ショッピングモールだったところを改装したもので、千葉だったので、家からも近く便利だった。会場入りしたのは、15時くらいだったと思う。

 控室に通された。そこで、待たされることになった。

 不思議と緊張はなかった。出されたお弁当を食べたり、ストレッチしたり、瞑想したりして過ごした。

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 友人が、何時間もかけて応援に来てくれたので、イメージトレーニングにつき合ってもらったりもした。

 控室にはグローブがあった。手に取ってみると、メチャメチャ薄い。これを試合で使うのかと思うと、ちょっと怖くなった。こんなに薄いんじゃ、衝撃がモロにくる。これで殴られたんじゃ痛いぞ、と覚悟した。

 妻・千鶴も駆けつけてくれた。会場が千葉だったので、来やすかったのも幸いした。

妻の千鶴さん(写真提供:講談社ビーシー)

「いや、ドキドキするう、本当に」。妻の方が怖がっていた。

「どう、緊張してる?」と聞かれたので、

「いや、それが不思議としないんだよね」と正直に答えた。

「開始、あと1時間くらいか。近づいたらまたちょっと、気持ちも変わるかもしれないけどね」

「ふーん」

 これまで、格闘技ジムに通って「マススパー」をやったり、ブロックダンベルを買って自宅で筋トレを繰り返してきた。ブロックダンベルというのは、重さを変えることのできるダンベルだ。

 また「マススパー」というのは、13割くらいの力加減でやる実戦形式のスパーリングで、相手をケガさせないようにしながら攻撃のパターンやガードのやり方を覚えていくトレーニング法。テレビの試合に出るのだから、その前にケガをするわけにはいかないのは当たり前だ。

 時間は限られているのだし、付け焼き刃で鍛えたくらいで急に強くなるものでもない。それよりもケガをしないことと、みっともない試合にだけはならないようにとそちらに気をつけた。

 それと気にしていたのが、体重だった。調べてみたら朝倉未来さんの体重は、オフシーズンで70㎏くらいだという。対して僕は当時、63㎏くらい。格闘技においては体重の差は大きく影響する。だから筋トレとともに、体を重くすることを心がけた。

 ちょっと自慢に聞こえるかもしれないけど、千鶴は本当に料理がうまい。この時はとても気にかけてくれ、「ホタテが筋肉にいい」と聞くとそれを使ったメニューをいろいろと工夫して、出してくれたり。だから食事に関してはとても恵まれた環境にいたと思う。

 結局、試合開始までに69.7㎏までアップさせることに成功した。

 やれることはやった。後は自分の出せる力を、最大限に出すだけだ。

 腹は固まっていた。

 だから「緊張してない」と言ったのは、強がりでもなんでもなく本音だったのだ。

 いよいよ会場入りする時間になった。

「頑張ってね」との千鶴の声を受け、控室を出た。

 彼女は別室でモニターを見ることになる。

「見てて、叫ばないように気をつけます」

 最後まで彼女は、緊張のしっぱなしだった。