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試合終了

 コンビニの店内ふうのセットで、待つように言われた。実はこの時、どれくらい待たなければならないのかもよくわかってはいなかった。

 僕より先に久保田覚さんが闘ったが、朝倉さんはその後、いったん控室に戻ってから僕のところに来るのか。それとも直接やって来るのか。それすらも聞かされていなかった。

 セットの中をぶらぶらと歩いた。時々、パンチの素振りをしたりして体をほぐした。

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 いつ、現れるのか。それがわからないというのは、なかなかに辛い。戦意をどの時点で最高潮に持っていくか。時間の感覚もおかしくなる。

 結果は、45秒で完敗だったのは、プロローグで書いたとおりだ。いざ、朝倉さんが現れた。それからはあれよあれよという間にすべてが終わっていた。

格闘大会「ブレイキングダウン」では勝利を収めたことも(写真提供:講談社ビーシー)

 試合が終わったのはもうすぐ22時というような時刻。会場に入ったのが15時だったから、その間の7時間近く、ほとんど待機時間だったことになる。

 そこから病院に連れて行かれ、なんだかんだで家に帰って来たのはもう0時過ぎ。既に翌日になっていた。

(写真提供:講談社ビーシー)

「病院で久保田覚さんに会ったよ」と言うと、

「あの人、ゆう君より先に闘ったじゃない。鼻を折られて、こんなになってて。朝倉さんってすごく強いんだ、って。こんな人とこれから闘うの? って、ますます怖くなった」と彼女は振り返って言った。

 いろんなことが詰め込まれた一日だったし、とにかく疲れ切っていた。

 なのに、なかなか寝つけない。体があちこち、痛い。眼窩底骨折している左目は当然として、全身がズキズキした。派手に放り投げられたのだ。どこにダメージが残っているとしても、おかしくない。

「見たよ」「すごかったよ」

 また、翌日からは筋肉痛もすごかった。やはり普段使わない筋肉を使ったんだな、と思い知らされた。

 そんな僕の傷に、千鶴は一晩中アイシングをして冷やしてくれていた。心配をかけたんだな、と改めて思った。本当にいろんな周りの支えがあって、僕はあのイベントに参加することができたのだ。

 ケガは、特に顔の左側はすごいことになっていたけど、休むほどのものでもない。週が明けたらそのまま仕事に行った。

 僕の会社は年配の社員が多く、ABEMAを見ていた人はあまりいなかったようだ。ただ、工事現場に行くと他の会社の人もいる。出場することは告げてあったので、若い人はたいてい見てくれたみたいだった。

「見たよ」

「がんばったね」

「すごかったよ」

 と口々に言ってくれた。

 周りに応援してもらっている、と肌で感じるのはやはり嬉しいものだ。

アウトローの哲学 レールのない人生のあがき方

後藤 祐樹

講談社ビーシー

2022年9月5日 発売

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。