「姉ちゃん、どこに住んでんだよ。教えろよ。パンティー盗みに行きたいからよ」

 姉・後藤真希のことさえ問答無用でからかいの対象にされるプリズンライフ。5年6ヶ月の刑期で、元EE JUMP・後藤祐樹が体験した「壮絶なイジメ」の実態とは?

 新刊『アウトローの哲学』より一部抜粋してお届けする。(全4回の4回目/#1#2#3を読む)

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後藤祐樹が刑務所で体験した「壮絶なイジメ」とは? ©文藝春秋

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イジメの実態

「おい、お前。これで歯を磨けよ」

 舎内掃の仕事の一つ、トイレ掃除の最中だった。意地悪な先輩のMが、僕より一つ下のSに言った。

「え、こ、これですか」

「そう。磨けよ」

 Mが指し示したのは便器を磨くタワシだった。あからさまなイジメ以外の何物でもない。

 これが、全員が同じ作業場で仕事をしている製造工場だったら、看守の目が光っている中、なかなかこんなことはできなかったろう。建物の中をあちこち動き回る舎内掃だからこそ、可能なイジメだったと言える。

 見ていた僕も、「先輩、そういうの、あまりよくないですよ」と制止することもできないではない。

 だが当然、「なんだよ、お前。先輩のやることに文句があんの」と今度は攻撃がこっちに向かうだけだ。「これは指導なんだよ。本来ならお前がやるべきことをちゃんとやってないから、俺がやってんじゃないか」

 便所タワシで歯を磨かせてなんの指導かと思うだろうが、ここではこんなバカな理屈も通じてしまう。厳密な序列と、「指導」という名目。イジメの温床を刑務所側がつくっている、と先に言ったのは、こういうことだ。

 刑務所に最初に入った時に「生活のしおり」というものが手渡され、中には「いじめやいやがらせは根絶する」という記述があった。これだけ読めば、イジメなんかやれば刑務所側が厳しく処罰してくれるんだろうなと思ってしまうが、とんでもない。実態は真逆なのだ。

 この後、心あるもっと上の先輩に「Mさんがこんなことをするんです」と訴えることも、これまたできないわけではない。だがまあ十中八九、「ヒドいなとは思うけど、まあ我慢しとけよ」と言われるのがオチだ。

 刑務所で一番大切なのは、なるべく波風を立てずに過ごすこと。巨大な序列の中で、心ある一人が声を上げたところで何も変わりはしない。周りから鬱陶しそうな目を向けられるだけだ。結局、イジメられた者は泣き寝入りするしかない、ということになる。

「おい、後藤。お前、トイレで釣りしてろ」