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「『パパもすぐ行くけん、ごめんね。ごめんね』って……」

「もう時間がないということは分かっていました。考えれば考えるほど、頭の中は真っ白になった。

 午前11時過ぎだったと思います。蓮翔と姫奈は寝ていました。宮崎で果物ナイフを買っていました。それで寝ている蓮翔のここ(※胸のあたりを手のひらで触る)を刺しました。とても痛がって、かわいそうで、これ以上刺せなかった。そして蓮翔の首を思い切り絞めました。そして次に姫奈の首を絞めました。首を絞めているときは2人の顔を見ながら、『ごめんね、ごめんね』って何度も繰り返しました。『パパもすぐ行くけん、ごめんね。ごめんね』って……」

 その後、田中被告は「何も考えられない時間が続いた」という。

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「タバコを吸った記憶はあります。どれくらい時間が経ったのかもよくわかりませんでした。死んだ蓮翔と姫奈の手をつながせました。すぐにパパも逝くと。遺書はすでに書いていました。すべて自分が悪い、3人の子供には何の落ち度もないのに。自分が不甲斐ないせいで……。

 するとパトカーのサイレンが鳴って、ホテルの前にたくさんパトカーが停まっていました。捜査員が来るんだろうなと、思っていました」

 そして、夕方に捜査員が部屋に突入した。田中被告は4階の部屋の窓から飛び降りた。

「逃げるためではありません。死のうとしました。それが2人との約束だから。でもそれができなかった。なんで自分だけが生き残ってしまったのか。入院先でもどうにかして死んでやろうと思いました。診てくれた医者にもなんで助けたんだ、と何度も言いました」

 しかし、取り調べを受けた刑事から「罪を認めて償うことが一番の供養になる」と言われたことで、大翔くんへの暴行も蓮翔ちゃんと姫奈ちゃんを絞殺したことも認めたのだという。当初、大翔くんは病死と診断されたが、田中被告の供述もあり、福岡県警は傷害致死容疑での立件に踏み切った。

「カッとすると、自分が止められなくなって…」

「今となってはどうすることもできませんが、本当に後悔しかありません。なんで大翔への暴行を止められなかったのか、なんで蓮翔と姫奈を施設に預けることができなかったのか。カッとすると、自分でも自分が止められなくなってしまうんです……」

 養子である大翔くんを暴行の末に死なせてしまい、残された実子、蓮翔ちゃんと姫奈ちゃんとの心中を選んだ田中被告。なぜ暴行は大翔くんにだけ向けられたのか。

「養子だからって差別していたわけではありません。蓮翔や姫奈にもキツく言うことはありましたが、2人はまだ幼かったから。だから大翔にばかり当たってしまった。だって、大翔は養子に迎えたんですよ。大翔も同様に愛していました……」

福岡拘置所 ©文藝春秋

 田中被告は時折、言葉に詰まりながらも丁寧な口調で語った。取材は数日に渡って行ったが、なかには話が食い違うこともあった。まだ気持ちの整理がついていない部分があるのだろうか。しかし、子供たちを手にかけてしまったことへの悔恨の念は変わらないように見えた。

 田中被告はなぜ3児の育児を1人で担うことになったのか。子供たちの母親はどこにいるのか。福岡拘置所の面会室で、田中被告がぽつりぽつりと語り始めた――。

#3へつづく)