福岡、鹿児島両県で2021年2月に、養子の大翔(ひろと)くん(当時9)を暴行の末に死亡させた傷害致死罪と、心中するために実子である蓮翔(れんと)くん(当時3)と姫奈(ひな)ちゃん(当時2)を絞殺した殺人罪で起訴された父親の田中涼二被告(42)の初公判が20日、福岡地裁で始った。

 田中被告は、実子2人の殺人については起訴内容を認めたが、養子の傷害致死に関しては「暴行でけがをさせたことは間違いないが、暴行で死んだかどうかはわからない」などと起訴事実を一部否認した。

 弁護側は、養子への暴行は認めた上で「亡くなる直前から体調が悪く、死因は胸膜炎を伴う気管支肺炎だ」として傷害致死罪は成立しないと主張している。

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 文春オンラインではこれまで田中被告に拘置所で複数回インタビューをしてきた。犯行当時の心境や、3人の子どもへの思い、母親との関係など、田中被告が語った当時の記事を再公開する(初出2021年9月11日、肩書き、年齢等は当時のまま)。

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 8月下旬、福岡拘置所の面会室で記者はある人物を待っていた。ほどなくして、足をひきずりながら1人の男性が現れた。身長は160㎝程度でかなりの瘦せ型。半袖のTシャツからのぞく腕には隙間もないほどの入れ墨が入っている。

 この男性は田中涼二被告(41)。2021年2月26日、福岡県飯塚市の自宅から南に約230キロ離れた鹿児島県・桜島の麓にある観光ホテルで、実子である蓮翔ちゃん(れんと・当時3)と姫奈ちゃん(ひな・当時2)の首を絞めて窒息死させたとして、5月に殺人罪で起訴された。7月には養子の大翔くん(ひろと・当時9)を激しい暴行により死なせたとして、傷害致死罪などでも起訴されている。(全3回の1回目)

田中容疑者(「FNNプライムオンライン」5月6日配信より)

「あのときは、自分が自分でなかった」

 入れ墨が入っているものの、田中被告の話し口調は丁寧だ。話している分には、とても子供を3人も殺害した犯人には思えない。現在の心境を尋ねると、田中被告はうつむき加減でこう話した。

「なんでこんなことをしてしまったのか。今では後悔しかありません。懐いていてくれていた大翔にひどい暴力をふるい、死なせてしまった。あのときは、自分が自分でなかった」

 この小柄男性は、いったいなぜ我が子を手にかけてしまったのだろうか――。田中被告によって引き起こされた「九州3児遺体発見」。全国紙社会部記者が事件について解説する。

「2月16日頃、田中被告は外出先で元妻の連れ子で、当時養子だった大翔くんを暴行し、死亡させています。その遺体を自宅に置いた上で、宮崎県を経由して鹿児島・桜島に向かい、宿泊先の観光ホテルで蓮翔ちゃんと姫奈ちゃん2人の首を絞めて殺害しました。捜査員が親子の宿泊していた4階の部屋に突入すると、1人だけ生きていた田中被告は窓から飛び降り腰の骨を折るなどの重傷を負いました」

 4月26日、田中被告はけがの回復後に逮捕された。取り調べに対して、大翔くんへの傷害致死については「子育てのストレスからひどい暴力をふるってしまった」、蓮翔ちゃんと姫奈ちゃんに対する殺人については「首を絞めて殺した。自分も死のうと思った」と供述したという。

「度重なる暴行で、大翔くんの遺体には全身にあざや打撲がありました。大翔くんへの行き過ぎたDVの末に死亡させてしまい、その後に実子と心中しようとしたが死ねなかったと捜査当局は見ています。桜島のホテルでは遺書が見つかっており、『3人で一緒に死ぬ』『全部自分が悪い』などと書かれていました」(同前)