東京ヤクルトスワローズ、セ・リーグ2連覇達成──。ルーキー丸山和郁のサヨナラ打による、劇的な優勝決定の陰に、その前日に神宮球場を“水没”から救った「チーム神宮」の奮闘があったことをご存じだろうか?

猛烈な雨雲の発生、そのとき神宮球場は?

「試合は問題なくできるだろうという想定があったんです。そうしたら雨雲が発生して、もう抜けるだろうなって思ってたら意外と長引いてですね、(雨雲が)どんどん大きくなっちゃったんです。それで『ちょっとまずいぞ』となったのが、(午後)5時過ぎぐらいだったと思います」

 そう話すのは明治神宮野球場の場長代理兼運営担当部長、若月一成さんである。ヤクルトがマジックを「4」として迎えた9月24日のDeNA戦。試合前のDeNAの練習中に降り出した雨は、午後6時のプレーボールが近づくにつれて激しさを増していた。若月さんが「ちょっとまずいぞ」と思ったのは、試合開始まで1時間を切っても激しい雨が続き、両軍先発投手のブルペンでの投球練習が難しそうな状況にあったからだ。

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水没部分を説明する、明治神宮野球場・場長代理兼運営担当部長、若月一成さん ©菊田康彦

「(先発)ピッチャーが肩をつくるタイミングがだいたい45分前って言われてるんで、それまでにブルペンに入れなかったら、当然(試合開始が)遅れちゃうわけですよ。ただ、私どもと球団さんで契約している気象状況のデータ提供サービスでは、雨雲が抜けるということだったんで、球団さんを通してそれを審判の方にお伝えしました。それで(午後)5時15分の段階で(試合開始を)6時20分にしようということになったんです」

予想以上に長引く雨、ブルペンには水溜まりが……

 雨は予想以上に長引き、ブルペンには水が溜まり始める。試合開始が午後6時20分から6時45分、さらに7時に繰り下げられる間に、一塁側と三塁側のファウルグラウンドにある投手の練習場は、完全に水没してしまっていた。ただし、若月さんに言わせればブルペンが浸水するのは日常茶飯事。雨が上がって排水できれば、十分に試合はできると踏んでいた。

「だから、まずはブルペンを使えるように復旧作業をしようって頭はあったんですよね。それである程度、小康状態になったところで(排水)ポンプを用意して、カッパギ(ドライワイパー)で掃いて、水を抜く作業をさせたんですよ。そこが大丈夫なら(試合が)できるだろうなと思って、様子を見に行ったら……」

 そこで目の当たりにしたのは、見たこともないような光景だった。外野のセンター付近を中心に、まるで池か湖かというような、大きな水溜まりが広がっていたのである。

大雨の影響で水没した神宮球場ブルペン

「これは大変なことになっちゃったぞ」

「『これは大変なことになっちゃったぞ』と。あんなの見たことなかったですからね。たぶん6時過ぎぐらいだったと思うんですけど、球団の営業部長さんのご意見も伺った上で、ブルペンに行って(スタッフに)『センターがひどいことになってるから、そこはもうほどほどにしてそっちに行け』って指示したんですよ。でもまあ(試合開始まで)1時間くらいありましたから、その時間があれば何とかなると思ったんです。ところがそうは行かなかった(苦笑)」

 大学卒業後に明治神宮外苑に就職し、球場勤務となってから今年で21年目という若月さんにとっても、未曽有の出来事である。めったなことでは使わないという排水ポンプをブルペンから外野に回し、並行してカッパギと呼ばれるドライワイパーで水を掃き出す作業などを指示。グラウンドで陣頭指揮を執りながら、自身も革靴のまま作業にも加わった。ところが整備スタッフを総動員してもなかなか埒(らち)が明かない。途中でポンプの電源トラブルもあり、これは人海戦術に頼るしかないと考えた。