9月27日の連続テレビ小説『ちむどんどん』第122話は、主人公・暢子の母親・優子の元に、優子の姉の最期を看取った大里五郎が自分の娘を連れて訪れる様子が描かれた。思わず息を呑んだのは、大里を演じた俳優・草刈正雄の演技があまりに見事だったからだけではない。2020年、『なつぞら』放送翌年に出版された彼の自伝『ありがとう!僕の役者人生を語ろう』の中に綴られた、彼の父親についての記述を思い出したからだ。
草刈正雄が明かしていた過去
「僕は1952(昭和27)年9月5日、福岡県小倉市(現・北九州市小倉北区)で生まれました。母のスエ子は当時20歳、父はロバート・トーラというアメリカ軍人でしたが、僕がまだ母のお腹の中にいる時に朝鮮戦争で戦死したのだそうです。母は、父が亡くなった時、その写真を一枚も残さずに処分してしまったので、僕は生まれてから今日まで父の顔を知りません。」
草刈正雄の自伝の第1章は、その父親についての告白から始まっている。おそらくは進駐軍として日本人女性と出会ったのであろう彼の父親が戦時中、沖縄戦に直接参加していたかどうかはわからない。だが27日の放送は、姉の最後を優子が知ることになる物語のクライマックスであるだけではなく、米軍人の血を引く草刈正雄と、沖縄出身の仲間由紀恵が真正面から向き合って沖縄戦についての告白を演じるという、息を呑むようなシーンになっていた。
『なつぞら』で演じた威厳ある「おんじ」柴田泰樹とはまったく違う、戦時下の罪悪感に怯え震えるように「水を求められたのに家族のことを考えて嘘をついた」と泣き崩れる大里五郎の演技。
それを演じる草刈正雄の隣には、彼の実の娘である草刈麻有が、役の上でも大里五郎の娘として座り、父を見つめている。あまりに過酷な光景であるが、草刈正雄はあえて自分の血が流れる娘の前でこの役、この場面を演じることを俳優として引き受けたのだろうと思わずにはいられなかった。
圧倒的な演技は草刈正雄だけではない。優子を演じる仲間由紀恵の首から肩の線は、第一話と見比べれば、当初の若い母親・優子のスマートな体型とは別人のように変わっている。おそらくはクランクインからこの最終週に至るまでの期間に、「沖縄のおばあ」になった優子を演じるために仲間由紀恵は急激に体重を増やしたのだろう。
「台本を読んだとき、沖縄戦に踏み込んで書かれてあったこと、それを具体的に演じていいのだということに驚きました」と語る彼女は、ディレクターが彼女の台本を見て「何度開いたのか」と驚くほどこの役に情熱を注いできた。それはこの作品が、朝ドラで沖縄戦、彼女の故郷の物語を演じる、たった一度かもしれないチャンスだからではなかったか。