朝ドラの沖縄描写を一歩前進させた演出
9月11日、沖縄県知事選挙が行われ、現職の玉城デニー知事が大差で当選した。9月13日の文春オンラインに掲載されたプチ鹿島氏の取材記事では、沖縄県知事をめざす3候補に対して『ちむどんどん』の感想を求めるという興味深い取材が行われている。
プロフィールでは肯定的な記述をしながら実際に聞いてみると「見ていない」とけんもほろろの対応をした候補もある中、玉城デニー知事はかなり好意的にドラマを見ていることが答えからわかった。彼もまた草刈正雄と同じように、米兵を父に持つアメラジアンの1人である。
SNSの追い風に乗る形で量産される『ちむどんどん』への批判記事には、疑問を感じるものも多い。『ちゅらさん』に比べて戦争や差別への描写が少ない、などという記事も目にしたが、沖縄戦の語り部を出演させ、米軍機の飛行音をドラマの中に流す『ちむどんどん』は、朝ドラの沖縄描写を確かに一歩前進させたはずだ。
鶴見駅に貼られた、黒島結菜が微笑む『ちむどんどん』のポスターの「だいじょうぶ。ほら、見ていて。」というコピーを見ながら考える。本土の視聴者たちは、黒島結菜や仲間由紀恵が伝えようとしたものを十分に見守り、受け取ることができただろうか。
WEBメディアはネットの書き込みを拾い上げてバッシング記事を作り、NHKのバラエティは放送直後に「ツッコミ」を入れることに気を奪われ、伝えるべき作品のメッセージを見落としてこなかっただろうか。かつて同じ番組の司会だった有働由美子や井ノ原快彦が自然に始めた「朝ドラ受け」は、朝ドラが子供から高齢者まで広い視聴者層を想定していることを踏まえた、寛容でポジティブなものだったように思うのだ。
主演女優である黒島結菜が『ちむどんどん』とは関係のない雑誌媒体で受けたインタビュー記事のツイートにまで、朝ドラについてのあてこすりのリプライが群がる状況は、果たして正常と言えるのだろうか。
27日の放送では、原田美枝子演じる大城房子も同席する中、仲間由紀恵と草刈正雄の息詰まるような圧倒的な芝居を、優子の娘たちやその夫を演じる黒島結菜、川口春奈、上白石萌歌、宮沢氷魚が立ち尽くすように見守っていた。そして草刈正雄の隣には、彼の実の娘である草刈麻有がいる。
5人の若い男女の俳優には、本土と沖縄、そしてアメリカのルーツが混在する。それはまるで仲間由紀恵と草刈正雄という2人の俳優が、沖縄とアメリカと日本の複雑にもつれた歴史というテーマを、次の時代を背負う若い俳優たちに受け渡す儀式のようにも見えた。
そして何年か後、いつかまた朝の連続テレビ小説の舞台に沖縄が戻ってくる時に、彼らの中の誰かがこの物語の語ろうとしたことを受け継ぎ、そしてこの物語が語れなかったその先に、沖縄の物語を進めてくれるのではないかと思う。