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中野 うん、成体になると必要ないということになるよね。むしろ捨てなければならない。というのも、脳って維持するのにすごくコストがかかる。人間も脳だけで人体の4分の1の酸素、5分の1のカロリーを消費している。ホヤは、脳を維持するには負担が大き過ぎるといって、自ら消化、分解してしまうの。それでもちゃんと生きている。生命の維持を優先するのであれば、実はそれぐらい脳というのは、本質的にはあまり要らないものだったんです。

森山 人間も脊髄反射みたいな反射性で生きることもできる。

中野 そうだね、呼吸と消化管さえ機能していれば脳死の状態になっても生きていられるよね。ということは反射的、突発的に何かしてしまうということのほうが生物としては重要なのであって、そこに意味をつけるのは生存戦略上、何のためなのだろうかと脳を研究する者としては考えてしまうわけ。

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森山 なるほど……って、ちょっと待ってください。僕の話をしていて、そのホヤの例を挙げたということは、僕は……。

中野 未來さんだけではないよ(笑)。体重比でいえばいかに巨大な脳を持つ人間であったとしても、誰しもホヤと同じ側面を持っているということを言いたい。

森山 そうか、反射的、突発的に何かしてしまうというのは、いかにもホヤ的だと。僕は脳を食べてないはずですが(笑)。

中野信子さんは「未來さんは踊りながら自分と外の世界との境界がなくなっているのでしょう」と分析する

中野 生命を維持するだけだったら脳はあまり重要ではないけれど、我々は、ホヤのように固着していればそれで済むような生物でもないんだよね。肉体としては脆弱な上に、近しい人間同士でも殺し合う、つまり最も怖い天敵が自分たちと同じ種であるという、厄介な生物なんです。

 そうなると生存戦略としては密なコミュニケーションが必須になる。敢えて距離をとるというのもコミュニケーションのうちだけど、適切に振る舞うためには、記憶と、相手がどう思っているかを類推する能力が必要で、そうでないと死ぬ確率が上がってしまう。