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 例えば、目の前にある資源を全部ひとり占めしてしまうと、いずれ周りの人間に攻撃され、協力が得られなくなる。だから、攻撃されずに済む最適な分量を、どれだけの時間間隔で自分のものにすればいいのか、瞬時に計算しないといけない。この計算を、私たちは「なんとなく」できるようになっているんです。わざわざ計算しているという感覚はないよね。1つ残しておくとか、自分の取り分を控えめにしておくとかいうことはかなり感覚的にやるでしょう。

森山 駆け引きの連続ですよね。

 

中野 また、集団を維持するための収量はどれぐらいかということも計算しないといけない。その計算を、計算していると感じずに無意識にやれるようにするためにこんなに脳が発達したと考えるのは妥当だといえる。とはいえ、それにも限界があって、人間の脳は2㎏ぐらいなんだけど、その大きさで自然に処理できるのは150人までの集団だと言われているよね。

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森山 たったの150人。

中野 それを超えると、もう、記号として扱わざるを得なくなる。すると、共感性は働かず、傷つけてもいい、いくらでも叩いていいということになりやすい。

 それから、突発的に何かやってしまったときは、意味を後付けして周りの人間に言い訳しておかなければコミュニケーションがとりづらくなってしまう。時にはその後付けの説明が噓であることもあるね。

森山 以前、教えてもらった「詐話(さわ)」ですね。

 

中野 そうそう、話を作っちゃう。詐話というのは噓ではあるが、周りとうまくやっていくための戦術だともいえる。真実を言わないほうがいい場合もあるからね。相手を傷つけないようにするために。もちろん相手を傷つける噓は容認できないけれど、話を作る能力自体は人間が時間をかけて築いてきたものだし、この能力をひとつの基盤として創造性というものが生まれたともいえる。

text: Atsuko Komine photographs:Yusuke Abe illustration: Ayumi Itakura

※人はなぜリスクを冒してでも安心な地を飛び出してしまうのか、中野さんが今なぜアートに関心を寄せているのか、対談の全文は『週刊文春WOMAN2022秋号』に掲載されています。

なかののぶこ/1975年東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程終了。医学博士。2008年から10年、フランス国立研究所ニューロスピンに勤務。著書に『ペルソナ』『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、『なんで家族を続けるの?』(文春新書)、『人生がうまくいく脳の使い方』(アスコム)など

もりやまみらい/1984年兵庫県生まれ。俳優・ダンサー。幼少期よりダンスを学び、99年に「BOYS TIME」で舞台デビュー。以来、映画・舞台・テレビと幅広く活躍している。10月15日から11月13日まで、東京藝術劇場 プレイハウスなど全国6都市で、森山未來×中野信子×エラ・ホルチドのパフォーマンス講演「FORMULA」を上演予定

[チケット発売中:https://formula.srptokyo.com/

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