その証拠に、当初の出演者陣のインタビューでは皆異口同音に「いかりやさんはスゴイ!」と発している。なのでもう共演陣一同の共通見解として「演技の厚味がすごい」、「いかりやさんの“お笑い芸人”としての輝かしい経歴と実績が、あのお芝居に深味と味を与えている」と、まま記述させていただこう。
そんな彼らの、現場でのいかりやへの視線は熱く、まるで新人の板前がチーフたる花板の“味”を盗むかのように皆、いかりやの一挙手一投足を見守っていた。生来、極端にシャイだったいかりやは、カットがかかった途端、自分の演技に見入る共演者たちに顔を真っ赤にしながら「お前ら、見てんじゃねえよ!」と、照れて叫ぶ光景がしばしば見られたという。
和久の決めゼリフのひとつ、語尾の“……なんてな”は、そんないかりや自身から逆輸入されたアドリブのセリフとも言われている。ところが、そんな重鎮たるいかりやが、若い織田に“テレビドラマにおける演技”のレクチャーを自ら頼んで受けていたというのだから、より驚きを隠せない。
並々ならぬ芸道への探求・求道心がそうさせたのだろうが、彼ほどの大ベテランが父子ほど歳の離れた織田に頭を下げ、教えを乞うなど考えられないというか、改めていかりやに敬礼を捧げたい心境だ。
そんな名優・いかりやも、まだシリーズが続く2004年3月20日、病気で帰らぬ人となった。その功績を称え、以後のシリーズでも回想シーンやセリフ等で常にその存在感を提示され続けていた。
『踊る大捜査線』を生んだもの
その後も青島以外のキャラに拠るスピンオフ映画、スペシャルドラマ、深夜ドラマ、配信系、バラエティ、ラジオ等々趣向を凝らした展開が継続され、2012年に映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(とテレビスペシャル)で、ついに約15年のシリーズの歴史に幕を降ろした。
今でも「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」や「正義なんて言葉は口にするな。心に秘めておけ」等々珠玉の名セリフや冒頭で書いた名テーマ曲を即座に思い出す方も多いことだろう。
現在は『相棒』、『科捜研の女』が我が国の刑事ドラマの代表作(どちらも20年以上選手だが……)だろうが、やはり2000年代の刑事、否、警察ドラマの金字塔として『踊る大捜査線』は永遠に語り継がれて行くことだろう。それは文字通り、出演者とスタッフの汗と涙の結晶に他ならない。