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大きく変わった当初のストーリー

 だが、ひとつ「?」なことがあった。記者会見で明言された、主人公青島俊作と柏木雪乃のラブストーリーが、一向に進展する気配を見せないのだ。

 これこそが亀山Pの慧眼で、数話放送後の視聴者の反応を見た亀山Pがいち早く恋愛要素をカットしたのだ。すでに脚本は第4話まで執筆されており、脚本の君塚はこの突然の変更に困惑しつつ、慌てて書き直したという。

 だが、その目利きが当たった。当時、恋愛ドラマに飽食気味の視聴者が、“警察ドラマ”としての魅力を『踊る』に感じている事実を明察。思い切ってそちらに舵切りしたところ、“今までにない新しい、面白いドラマ”としてじわじわと世間に浸透し始めたのだ。こんな英断を下せる名プロデューサーも今のテレビ界にはもういない気がする。

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 “脱サラして警察官になった”青島役に懸ける織田の熱も並々ならぬものがあり(きっと当時の自分自身を重ね合わせていたのだろう)、とにかく亀山Pや本広克行監督と顔を合わせた途端、役のアイディアに関するマシンガン・トークがスタートしたという。だがそれはスタッフ陣にとっては嬉しい悲鳴でもあった。

 そんな織田に触発されてか、柳葉も本作ではヒールに近い、それでいて次第に青島最大の味方になって行く警視正・室井慎次役に熱い想いを込め、現場では極力、織田を始め共演者とコミュニケーションを取らぬよう努めていたという。それでいて険悪なムードにならなかったのは共演者たちもそんな柳葉の意図をきちんと汲み取っていたからだろう。

 織田、柳葉に限らず、水野美紀、深津絵里、ユースケ・サンタマリアらレギュラー共演陣も皆、すでになにがしかで大成しつつ、“ネクスト・ステージ”を模索する顔ぶればかり。亀山Pもそこを意識してキャスティングしていたと思われる節がある。そこがそれぞれの役と重なり、見事にハーモニーを奏でたのだ。

水野美紀(2000年撮影) ©時事通信社

いかりや長介に集まる熱視線…「お前ら、見てんじゃねぇよ!」

 極めつけは和久平八郎役のいかりや長介だろう。説明するまでもなく、国民的コメディアン・ユニット、ザ・ドリフターズのリーダーだが、いかりやもこれが俳優としての新境地ということでもなく、すでに『ベイシティ刑事(コップ)』(’87年)などで“冴えないが、いざという時にはキレ者の顔を覗かせる”熟年キャラを幾つも演じており、この和久役も同一ラインのものと思われた。

 ところが、“警察ドラマ”という設定の中で、この酸いも甘いも噛み分けたいかりや自身の実績が最大限に機能した。見事に“役にハマった”のだ。