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《追悼・燃える闘魂》「出る前に負けること考えるバカいるかよ!」「1、2、3、ダァーッ!」日本人の魂を揺さぶった“アントニオ猪木の言葉”

2022/10/03
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 超一流と、それ以外を分けるものは何か。「言葉」を持っているかどうか、だ。

「わが巨人軍は永久に不滅です」(長嶋茂雄)

「チョー気持ちいい」(北島康介)

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「報われない努力だったかもしれないけど、一生懸命頑張りました」(羽生結弦)

 国民的ヒーローと呼ばれる人々は必ず、わずかな文字数にその人の人生を結晶させたかのような、忘れがたい言葉を持っている。

 プロレスラーは、特にそうだ。

「俺はお前の噛ませ犬じゃない!」(長州力)

「新日本プロレスのファンの皆様、目を覚ましてください!」(小川直也)

「プロレスラーは本当は強いんです」(桜庭和志)

 プロレスの歴史は、プロレスラー達が綴ってきた言葉の歴史でもある。この点においても、アントニオ猪木は突出した存在だった。

「言葉の力」を駆使したプロレスラー、アントニオ猪木

「元気があれば何でもできる」

「1、2、3、ダァーッ!」

今月1日、79歳で亡くなられたアントニオ猪木さん ©時事通信

 猪木やプロレスに詳しくなくても、猪木の言葉を知らない人はほとんどいないだろう。若い人にとっては、「バラエティ番組でよく見かける、おもしろい決め台詞のおじさん」というイメージが強いかもしれない。

 しかし、猪木の言語感覚の鋭さは今にはじまった話ではない。「言葉の力」で自らのキャリアを伝説にまで昇華したのが、アントニオ猪木というプロレスラーなのだ。

 力道山にスカウトされた2年後の1962年、猪木はテレビドラマ『チャンピオン太』に「死神酋長(しにがみしゅうちょう)」という、現代では口にすることすら憚られるキャラクターとして出演。

師匠の力道山 ©文藝春秋

 力道山は死神酋長を気に入り、猪木のリングネームを死神酋長にしようとしたが、必死に頼んでやめてもらったというエピソードもある。笑い話に思えてしまうが、当時の猪木にとって、力道山に逆らうというのは命がけの行為だったはずだ。キャリアのごく初期から、猪木が言葉選びに意識的だったことがうかがえるエピソード……と、思えなくもない。

 そしてプロレスラーとして全盛期を迎えた猪木は、今でも語り継がれる、数々の名言を残すことになる。