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《日本人が知らない中国共産党》末端組織が「生活者の愚痴」を吸い上げる“手強い”社会システム

2022/10/15
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 また、特に企業内の党組織では、政治思想のみならず、経済知識や事業活動に必要な技術的な知識なども学習する。これは業務時間内に行われる社員教育とは別個のものである。国有送電会社の国家電網の一般党員の場合、1か月に6時間以上の学習と、年間2篇のレポート提出が課される。更に党課と呼ばれる集中講義を年1回受講する。

 ボランティア活動は党の規則などで義務化されているものではないが、殆どの基層党組織にボランティア活動があると見て間違いなく、また、ボランティア活動をしたことがない中共党員というものもほぼ存在しない。

 もちろん、中共党員のボランティア活動には、社会一般からの党や党員への信頼を高めるという効果も見込めるだろうが、これはおそらく副次的なものである。ボランティア活動は党組織の「建設」活動と見做される。ボランティア活動を通じて党員の意識や協調性を高め、また、組織の団結をはかるという教育・訓練の効果を重要視しているものと思われる。災害時のボランティア活動のほかに、平時でも公共スペースの掃除などのボランティア活動を行う。

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ボランティア活動に励む党員

末端組織が国民の不満を吸い上げる

 中共で党支部が最重要とされている最大の理由は、社会の末端で非党員と交わる最前線となる組織だからである。党支部は非党員の一般人に対して、党の方針や政策を説明・説得するプロパガンダを担う。

「中共のプロパガンダ」というと、日本ではメディアへの統制や政府系メディアの翼賛的な報道ばかりに目が向くところだが、他者に情報を伝え、納得させる上で、教育訓練を受けて組織化された生身の人間からの説明や説得に勝るものはない。

 中共の末端組織は様々な方法で意見の吸い上げを行う。日ごろの仕事や生活の中で、党員どうしはもちろん、党員と非党員は交流している。というより、日常の生活や仕事のために交流せざるを得ない。つまり、職場で愚痴を聞いたり近所での井戸端会議をしたりといった交流が、中共の末端組織による問題の把握に繋がり得るのである。

 中国の社会問題、例えば、10年以上前に注目された食品安全問題であったり、2010年代中ごろから深刻化した大気汚染問題や受験競争過熱や住宅難であったり、近年、注目されている子供のソーシャルゲーム規制であったり、この様な問題は、なにも、党中央の幹部や政府やメディアが現地住民の意向と関係なく勝手に騒ぎ立てているわけではない。最初にこれらの問題が発見・議論されるのは一般の生活者の愚痴の中である。

文化学園大学准教授・西村晋氏による「あなたの知らない中国共産党」全文は、月刊「文藝春秋」2022年11月号と「文藝春秋 電子版」に掲載しています。

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