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「やはりおごりが出たか」ENEOS会長“わいせつ退場”の波紋 事件当日は特約店の経営者らと…

「やはりおごりが出たか」ENEOS会長“わいせつ退場”の波紋 事件当日は特約店の経営者らと…

丸の内コンフィデンシャル

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日本経済の中心地、東京・丸の内から“マル秘”財界情報をお届けする人気コラム「丸の内コンフィデンシャル」。月刊「文藝春秋」2022年11月号より一部を公開します。

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「石油王」になれなかった男

「やはりおごりが出たか」

 ENEOSホールディングス会長の杉森務氏を知る財界有力者は、突然の辞任理由が女性への猥褻行為だったと聞くと、深い溜息をついた。

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 石油元売り最大手のJX日鉱日石エネルギー(現ENEOS)のトップに就いてから8年。エクソン・モービル系の東燃ゼネラル石油を経営統合し、東燃出身幹部との軋轢が絶えなかったが、今年4月に子飼いの齊藤猛氏を社長に引き上げ、盤石の体制を築いたばかりだった。

杉森務氏 ©時事通信社

 学生時代から野球に打ち込み、社会人野球の名門、日本石油に入り、役員になると野球部長を兼務した。もともと勤労課が長かったが、課長時代に販売部門に転じ、常務だった渡文明氏に出会った。

「平成の石油王」と呼ばれた渡氏は、ガソリンスタンドを経営する全国の特約店との強い絆を権力基盤としていた。杉森氏の負けず嫌いを買った渡氏は、「お前はクビだ!」と叱りながら鍛えた。杉森氏も渡氏の手法を学び、地元のスタンド経営者とので打ち込んだ。「販売エースの座をあっという間にもぎ取った」(旧日石OB)という。

「もともと体育会系の気質だから、親分子分の関係を大事にする。仕事には厳しく、パワハライメージを持つ社員もいた」(旧東燃出身者)

 都心のクラブで側近たちと飲む姿もよく見かけられ、地方では派手に飲んでいた。事件が起きた当日は特約店の経営者らとの酒席だったという。

 4年前には経団連副会長の座も射止め、脱炭素戦略や中東との民間外交を担った。ENEOSにとって「脱石油」は最大の経営課題だ。杉森氏も水素エネルギーの開発に取り組み、再生エネルギーの開発会社を買収した。

「脱石油」が最大の経営課題

 甘利明元経産相ら政界にも人脈を広げた。菅義偉前首相とは官房長官時代から親しく、買収した子会社が秋田沖の洋上風力発電への参入を検討した際も「脱炭素戦略を打ち出した菅氏への配慮がちらついた」(旧日石出身幹部)。

 岸田政権がガソリン価格を抑えるため、石油元売りへの補助金政策を打ち出した時も、業界をまとめる役回りを担った。杉森氏退場の波紋は石油業界だけでなく、政財界でも当分収まりそうにない。