「小林喜光氏の思惑が出ているに過ぎない」
化学業界で三菱ケミカルグループの「独り相撲」が話題になっている。
昨年末、ジョンマーク・ギルソン社長は中期的に石油化学事業を再編する方針を表明、「日本の主要プレーヤーとの統合のほか、新規株式公開や株式売却も選択肢となる」と語った。その後、2024年3月期までに同事業を分離するものの事業売却はせず、全額出資子会社にして他社との再編を目指すと踏み込んだが、同業他社は食いつかない。
世界的な脱炭素の潮流を踏まえれば石化事業の再編という方針は間違っていないのだろう。それでも他社の反応が鈍いのは先行表明した三菱ケミが再編の主導権を握るのではないかという懸念があるからだが、理由はそればかりではない。
「三菱ケミの方針はギルソン社長が考えた話ではない。元社長で現在は東京電力ホールディングス会長の小林喜光氏の思惑だ。それがギルソン社長の口から出ているに過ぎない」と他社幹部は分析する。
三菱ケミは再編に次ぐ再編の歴史を辿ってきた。1994年、三菱化成工業と三菱油化が合併し三菱化学が誕生。その三菱化学が2017年、三菱樹脂、三菱レイヨンと合併してできたのが三菱ケミだ。
小林氏は74年、三菱化成工業に入社。03年には三菱化学の執行役員に就き、07年に社長となった。いわば三菱ケミの保守本流を歩んできた人物だが、手掛けたのは光ディスクやフロッピーディスクの開発などだ。屋台骨だった石化事業に思い入れはないという。
その小林氏は財界人として、つとに知られた存在だ。経済同友会代表幹事や経済財政諮問会議議員などの要職を歴任。その実績を買われて東芝社外取締役や東電会長ポストに就いた。このため「肩書きハンター」、「経営者としてはそれほど実績がないじゃないか」と揶揄する声もある。
「日本の化学業界を挙げて石化事業を再編しても、小林さんのルサンチマンや『ええ格好しい』の片棒を担ぐだけ。そもそも三菱ケミが石化事業の再編に本気なのかも疑わしい」(前出の同業他社幹部)
だからこそ他社が、「この指とまれ」に応じないという。
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「丸の内コンフィデンシャル」全文は、「文藝春秋」2022年11月号と「文藝春秋 電子版」に掲載しています。
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