B面を歌うのは当時の妻・倍賞美津子
その後“イノキ、ボンバイエ!”のチャントから始まり、猪木自身の“ファイッ! ファイッ!”という声が挿入されたシングル盤『炎のファイター/アントニオ猪木のテーマ』が改めて発売されるわけだが、このB面には『ALI BOM-BA-YE』に当時の猪木夫人である倍賞美津子が日本語詞を乗せて歌う『いつも一緒に』が収録されている点に注目したい。
“いつも一緒なの 愛があるから
男は戦いに 今日もまた 出かける
女はただ 待つだけ”
なかにし礼によるこの詞は、戦う夫(猪木)を待ち続ける妻(倍賞)の心情を写したように見受けられる。そして曲調も「アリ、殺っちまえ」が原曲とは思えないスキャットのような一曲だ。その後2人は離婚して別々の道を歩むことになるが、2002年、新日本プロレス30周年記念の東京ドーム大会でリングに立った猪木の元へ、倍賞がサプライズで登場する。苦笑いする猪木に対して花束を贈る倍賞。それは2人の絆を感じさせるものであり、バックに流れていた『炎のファイター』のインストバージョンもまた情感を誘うものだった。
猪木のこの曲への思いが詰まった名シーン
猪木のこの曲への思いは、1998年4月4日、猪木の引退試合における演出にも表れていた。ドン・フライとの一戦の直前、突如“アーリッ、ボマイェ!”のフレーズが流れ、『ALI BOM-BA-YE』が東京ドームに鳴り響く。パーキンソン病に罹り、足元もおぼつかない状態のモハメド・アリがこの曲で登場し、聖火台に火を灯したのである。そして引退試合を終えた後、セレモニーに再び登場したアリと熱く抱擁する猪木。猪木がアリを、そして自らの代名詞となった『炎のファイター』の原曲である『ALI BOM-BA-YE』を心からリスペクトしていることが伺える名シーンだった。
猪木の死去に際して、100人いれば100人が猪木の在りし日の姿や魅力について思いを馳せたことだろう。それらを彩り、演出した要素としてこの曲の存在感はあまりにも大きい。筆者もまた、1980年代初頭にテレビで『炎のファイター』をバックに観衆の中を揉みくちゃになって入場する猪木の姿に惚れたひとりだ。
この曲の中に、アントニオ猪木はずっと生き続けているのである。
※1 レコード『炎のファイターーアントニオ猪木のテーマ』ライナーノーツより。
※2 清野茂樹・著『1000のプロレスレコードを持つ男』(立東舎)における新間寿氏の証言。