どんな音楽のジャンルにも時代を超越する一曲、アンセムがある。スポーツ、特に格闘技関連のアンセムは数多くあるが、プロレスを象徴する一曲といえば先日亡くなったアントニオ猪木のテーマソング『炎のファイター』だろう。“イノキ、ボンバイエ!”のチャントが繰り返されるイントロが流れ、“ファイッ! ファイッ!”と猪木の肉声で連呼されれば誰もが血湧き肉躍る。
“イノキ、ボンバイエ”はのちの格闘技イベントの名称(INOKI BOM-BA-YE)にもなるなど猪木を象徴するフレーズだが、そもそも“ボンバイエ”とはどんな意味を持つのか。語源をさかのぼると、この曲の深いルーツが見えてくる。
ボンバイエの語源は「ぶっ殺せ」「やっちまえ」
ボンバイエの語源はザイール(現・コンゴ民主共和国)で用いられるリンガラ語で「ぶっ殺せ」「やっちまえ」の意味を持つ「ボマイェ(Boma ye)」。かなり物騒なワードだが、元をただせば伝説のボクシングヘビー級世界チャンピオン、モハメド・アリへの声援に用いられたもの。そしてこの曲自体も元々はアリのテーマソングだったのだ。
18歳でプロに転向し、22歳でWBA・WBC統一世界ヘビー級王座を奪取。「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と呼ばれた華麗なフットワークと鋭いジャブ、ヘビー級らしからぬパンチスピードを武器に無敗を誇ったアリだったが、1967年、最も脂がのった25歳の時にベトナム戦争への徴兵を拒否したことでベルトを剥奪されてしまう。
そのほとぼりも冷めた1974年、アリは7歳年下の王者ジョージ・フォアマンに挑戦する。開催地であるアフリカのザイール国民は徴兵を拒否してアメリカ政府に背いたアリをヒーローとして迎え、観客は“アーリッ、ボマイェ!(アリ、殺っちまえ)”と声援を送る。その声に後押しされたアリはまさかの8ラウンドKO勝ちを収め、32歳にして再び王座を奪取。劇的な勝ちっぷりにその一戦は後々まで「キンシャサの奇跡」と讃えられることとなる。