出産とあまり関係なく、大声で話す人がもともと苦手なのであれば、まず、大声で話す人に対してあなたが感じているストレスを数値化してリストアップしてみましょう。たとえば、外出先で「赤ちゃん見せてー!」と叫ばれることがストレス100、馴れ馴れしくされることは90、朝、喋り声で起こされることは85というように、あなたにかかるストレスが強いと感じる順に書き出します。
そして比較的ストレスの数値が小さいものを見つけてください。ひとりでコンビニに行くのは、隣人と会うかもしれないけれど赤ちゃんを見せてとは言われないからストレス10、2階の窓を開けるのは、隣人の声が聞こえたとしても遠くに聞こえるから5ぐらいでしょうか。
リストが完成したら、まず最もストレスが小さい「2階の窓を開ける」を繰り返しやってみます。窓を開けるたびに瞑想をするなり、歌を歌うなり、自分の心が落ち着くことをする。これは遠くで隣人の声が聞こえたとしても平静でいられるようになるためのトレーニングです。
これができるようになったら、少しストレス度が上がる「ひとりでコンビニに行く」を繰り返しやってみる。このようにして弱いストレスから強いストレスへと段階的に克服していくことを「系統的脱感作」といいます。臨床心理で効果的とされている認知行動療法のひとつなんですよ。ゆっくり時間をかけて試してみませんか。
また、もしかしたらあなたは、隣人が嫌と言いつつ、実は隣人を嫌だと認知してしまう自分が嫌なのかもしれません。大きい声で話す隣人は善意の人かもしれず、でもその善意を受け入れられない自分が、まるで心の狭い人のようで嫌……。そんな気持ちで自分を責めてしまう人も時々見かけます。
でも、嫌な人のことは嫌なままでもいいんですよ。万人を好きになる必要はありません。万人を好きだという人がもしいたとしたら、極端な言い方をすれば、その人はうそをついているか、他人の内面にまったく関心のない人だと思います。
隣人の大きい声がこの先、自然に変わることを期待するのはおそらく難しいでしょう。他人を変えるよりも自分を変えることのほうがずっと手っ取り早いのです。大きな声を「うるさい」でなく、「あ、今日も元気ね、おばあちゃん」と、感じられる日があなたに早く訪れるといいなと思います。
text:Atsuko Komine
※#2では「他人よりスタートが遅れた後悔」という焦燥感に、#3では、ゲストに俳優・松重豊さんを迎え、「セリフ覚えが悪い」という悩みに中野さんがお答えします。
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