みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えする連載「あなたのお悩み、脳が解決できるかも?」。今回は、「隣人との付き合い」という難題に、中野さんが脳科学の観点から回答します。(全3回の1回目。#2#3を読む)

中野信子さん ©文藝春秋

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Q 隣家の女性の大きな喋り声がストレスです── 20代後半・0歳児を育てている専業主婦からの相談

――昨年出産し、同時に家を新築して引っ越してきました。隣家に女性の老人が住んでいて、毎日大きい声で喋り続けています。朝の7時前から大声で喋るので、その声で起こされます。引っ越しの挨拶をした時からすごく馴れ馴れしく、外でバッタリ会ってしまうと「赤ちゃん見せてー!」と叫ばれるので、それが嫌で私は外出を控えるようになりました。その人の声が聞こえてくるだけで動悸がするほど嫌になってきました。こんな時はどうしたらよいのでしょうか。

 せっかく新しいお家で暮らし始めたのに、動悸がするほど嫌なことが待っているなんて、うんざりしてしまいますよね。大きな喋り声が嫌だと感じるのは、あなたが出産してからより敏感になったでしょうか? それとも、隣人のような人はもともとあなたの苦手なタイプなのでしょうか?

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 もし嫌だと感じるのが出産後であれば、時間を味方につけるのは一つの方法かもしれません。出産後のお母さんの脳はオキシトシン濃度が高い状態です。オキシトシンはその名の由来が「早い出産」というギリシャ語であり、陣痛を促進したり母乳の分泌を促したりする働きをします。

 一方で、危険をいち早く察知して、それに対抗しなければ、という情動を高める作用もあります。誰かが守ってやらねばすぐに死んでしまいかねない我が子を、決死の覚悟で守る必要があるからです。そのため、オキシトシンの分泌が多いと、自分の身の回りの安全を乱しかねないような相手に対して、嫌悪感が湧きやすく、より攻撃的な気分が強くなるのです。

 子どもが赤ちゃんの時期を過ぎてお母さんのオキシトシンレベルが落ち着いてくれば、隣人の声は気づいたら気にならなくなっていた、となる可能性が高いですよ。ただ、それまでは、嫌だなという気持ちになったら「私は今、オキシトシンが作用して、『子どもを産んだばかりの野生動物の母状態』なんだ」と、自分を客観的にイメージしてみてください。そうやって冷静に自分の状態を把握することで、すこし気持ちが落ち着くと思います。